2012年5月21日、日本では3大都市圏を中心に広範囲で金環日食が見られました。日経ものづくり編集部でも、多くのスタッフが7時32分ごろ空を見上げていたようです。そんな同日に東京・新橋で開催されたのが、ものづくり塾「軽量化、脱鉛はんだ、接着時間短縮、易解体を促進 進化する接着技術と活用法」というセミナーです。

 講師は、接着剤メーカーの元技術者で元社長の若林一民氏(エーピーエスリサーチ代表)です。日経ものづくりが主催するセミナーということで、休憩時間に若林氏といろいろとお話しする機会をいただきました。その中でうかがったお話の1つが、シールタイプの携帯電話機用クリーナーや米3M社の付箋紙「ポスト・イット」のメカニズムです。

 シールタイプの携帯電話機用クリーナーと言ってもピンと来ない方が多いかもしれません。簡単に説明しますと、同クリーナーはシート状のもので、シートの表面がクリーナー(携帯電話機の画面拭き)に、裏面が粘着面になったものです。粘着面は貼っては剥がし、剥がしては貼るといった繰り返しが可能なもので、使用していないときには携帯電話機の裏面に貼り付けておけるという製品です。

 このクリーナーがどうして何度も貼ったり剥がしたり可能なのか--。若林氏によると、ワックスと相溶性が悪い基と、ワックスが粘着剤に入っているからだそうです。それによりワックスが粘着面の表面に浮き出てきて剥がしやすくなるという仕組みです。

 これに対して「ポスト・イットは、ある幅を持った粒径の粉が接着層に混ぜてある」(同氏)そうです。このため、接着層の表面は、それらの粉がところどころに顔を出していて凸凹しているとのことです。接着剤となる樹脂は、そうした粉の周囲に付いています。従って、被着材と触れるのは表面から出っ張った粉に付いている接着剤だけになります。すなわち、粉を入れることで接着に寄与する面積を減らすことができ、剥がしやすくできるのです。

 しかも、ポスト・イットの場合、上から強く押すようにして貼れば、粉がつぶれて接着に寄与する面積を増やせます。比較的しっかり付けたければ強く押し、糊残りを極力抑えたければ軽く押すといった使い方ができるのです。私にとっては目からウロコのお話しで、感心することひとしきりでした。

 そんな私に若林氏はこう付け加えました。「でも、3M社の特許にはこれぐらいの粒径のものを入れるとしか書いていないんですよ。特許だけを見ても開発思想は分からないんです」。特許を裏読みする力の大切さを、改めて感じたひとときでした。