総務大臣の川端 達夫氏は2012年5月初頭、「スマートテレビの国際標準規格はまだ存在せず、日本主導で国際規格を策定していく」という考えを示しました。2012年6月に東京で開催される国際シンポジウムにおいて、デモ機を使って基本機能を提案するそうです。
 2012年5月1日に総務省の情報通信審議会 情報通信政策部会が公表した、「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の答申骨子(案)には、スマートテレビについて以下のような提言が盛り込まれました。「急速な普及が見込まれるスマートテレビの推進に向け、我が国としての基本戦略を早急に策定し、(1)スマートテレビの国際標準化に向けた基本機能の提案、(2)スマートテレビのアプリケーションの開発に資する実証実験の実施、(3)オリンピック等のイベントの機会を活用したデモンストレーションの実施、普及啓発、国際展開の促進、に取り組むことが必要ではないか」。

 総務省が主導するスマートテレビの規格は、次世代のWeb標準技術であるHTML5に対応したブラウザーを基盤としたものになりそうです。HTML5は、従来のHTML4.01に対して、動画や音楽の再生、グラフィックス表現などの機能強化が図られました。これに対応したブラウザーは、インターネットへの接続を前提にした機器においてはアプリケーションの実行環境になります。
 
 HTML5には、「Internet Explorer」「Chrome」「Firefox」「Safari」など主要なWebブラウザーが既に対応しています。これに対して国内では、2011年ごろから総務省の他に複数の団体が、テレビなどへの応用をにらみ、放送通信連携に対応したHTML5対応ブラウザーの開発に取り組んでいます。例えば、IPTVフォーラムは2011年12月、HTML5を用いた放送通信連携サービスの技術仕様の策定を目的にした作業部会を発足させました。

 6月に発表される日本主導のスマートテレビ規格の詳細がどうなるかはまだ不明ですが、上記のような国内の複数の団体の取り組みを統合したものになると予想されます。

 このように、国内でもようやくスマートテレビに対する議論が活発化しそうな気配が見られます。日本はBML(Broadcast Markup Language)によるデータ放送サービスの導入では世界に先んじたものの、よりオープンなインターネットに対応するスマートテレビの市場開拓では欧米に遅れを取っています。「スマートテレビの勝者が見えない今なら、この状況を変えられる」との見方も多いのでしょう。

 ただ、「スマートテレビの国際標準規格」にひまひとつピンと来ないのも正直なところです。まず、スマートテレビのようなものに国際標準規格は必要なのか。スマートフォンにおけるiOSやAndroidのように、デファクト・スタンダードが形成されていくものではないのか、と思います。

 仮に標準規格の中核がHTML5対応のテレビ向けブラウザーとすると、技術的にどの部分で差異化が可能なのか。筆者はスマートテレビの競争領域は、OSやブラウザーを含むソフトウエア基盤よりもむしろ、上位レイヤーのサービスやアプリケーションなどにあると考えています。

 さらに、標準規格について日本勢はどの部分で主導権を取れるのか。仮に日本が主導できたとして、日本企業に対してどんなリターンがあるのか。

 もしかしたら、HTML5をベースに放送とインターネットを高度に融合させた、これまでにない放送通信連携サービスが提案されるのでしょうか。

 いずれにせよ、6月の発表を契機に、スマートテレビに関する議論が国内でより活発化することに期待しています。