さて、シャープとの提携、CMIの実権掌握と、「台湾と日本が手を携えて韓国に勝つ」という目標に向け着々と地盤固めを進めているように見えるフォックスコン。ところが、地元台湾で最近、「フォックスコンはさほど台湾に貢献していないのではないか」との論調が出始めている。

 「フォックスコン叩き」とも言える論を展開したのは、台湾の経済誌『天下』。5月16日号で「フォックスコンとHTC、台湾にとって重要なのはどちらだ?」という特集記事を組んだ。

 同誌はまず、韓国Samsung Electronics社を引き合いに出し、「売上高がGDPの22%を占めるSamsungグループは、韓国にとって『大到不能倒』(Too Big to Fail=大きくて潰せない)存在だ」と指摘。その上で、「では、売上高が3兆4000億NTドル(1NTドル=約2.7円)とGDPの約2割を占めるフォックスコンは、台湾にとってSamsungと同じほどの重要性があるのか。おそらく答えは『ノー』だ」と評した。

 その理由として同誌は、Samsungが韓国内で20万人超の雇用機会を創出しているのに対し、フォックスコンは中国では90万人の社員を抱えているものの、台湾内では5000人足らずに過ぎないと強調。さらに、GDPに輸出の占める割合が2000年の約4割から昨年は66%と台湾の輸出依存度が高まり続けているとした上で、台湾当局のシンクタンク、中央研究院社会学研究所の林宗弘氏に、「雇用と輸出の観点から見る限り、フォックスコンの盛衰は、台湾の実体経済には影響を及ぼさない」と断じる見解を語らせている。

 同誌は、「フォックスコンは生産も雇用も輸出も中国で行っており、台湾には帳簿上の売り上げを計上するのみ。近年成長を続ける台湾経済に数字の上では貢献しているが、台湾市民は所得や消費の上で成長をまったく実感できないでいる」と主張した。

 これに対して、同誌が台湾に対する貢献度が高いとして取り上げたのが、スマートフォンのHTCと、ファウンドリ最大手の台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing社)。その理由は、両社の製品の大半が「MIT」、すなわち「メード・イン・タイワン」だからという点だ。「売上高はTSMCがフォックスコンの7分の1、HTCが8分の1に過ぎない。しかし、台湾にとっての実質的な経済成長と雇用という点において、この2社はまさに『Too Big to Fail』だ」と評価した。

HTCは、最近になって日本市場にも力を入れている。KDDIから5月下旬に発売される「HTC J ISW13HT」は日本市場向けに新しい筐体デザインやカラー・バリエーションを採用した。

 このうちHTCについては、同社の生産する携帯電話は過去3年、台湾の輸出を牽引する主要な原動力になったとした。一方、TSMCについて、同誌は名前を持ち出しただけで詳述はしていないのだが、TSMCのウェブサイトによると、生産拠点は、本社とFab2、3、5、8、12が新竹サイエンスパーク、Fab 6、14が台南サイエンスパーク、Fab15が中部サイエンスパークと主力工場はいずれも台湾。3カ所ある最先端の12インチ工場もすべて台湾だ。

 シャープとフォックスコンの資本・業務提携を報じた日本のメディアの中には、「日本のモノづくりの没落」「産業の空洞化」の文脈で論じたものが少なくなかった。だが、そのフォックスコンが台湾で「地元でモノづくりをしない」と批評されているというのは、なんとも皮肉なものである。