「米Apple社が『次期iPhone』で、いよいよ採用に踏み切りそうだ」――。

 現在、中小型ディスプレイの業界関係者が、このように口をそろえる技術があります。外付けだったタッチ・パネルの機能を液晶パネルに内蔵する「インセル型タッチ・パネル」(以下、インセル型)です。2012年4月に、海外の大手メディアが冒頭の内容を報じたため、インセル型という言葉を耳にしたことがある読者の方も多いと思います。

 インセル型は、スマートフォンやタブレット端末などに搭載されている、外付けのタッチ・パネルを不要にする技術。機器メーカーにとっては、端末の薄型化や表示性能の向上などを図れるようになります。2000年代後半には、大手液晶パネル・メーカー各社が学会や展示会で発表するなど技術開発は活発化していましたが、量産はごく一部の用途にとどまっていました。こうした状況が変わり始めたのが2012年。ソニーモバイルディスプレイ(現・ジャパンディスプレイ)が1月にスマートフォン向けパネルの本格量産に踏み切ったことで、いよいよ普及の兆しを見せています。

 Apple社はここ数年にわたり、中小型ディスプレイの新技術導入の牽引役を担ってきました。低温多結晶Si(LTPS)TFTを使った300ppiを超える高精細の「Retinaディスプレイ」、タッチ入力をしても液晶分子の配向に与える影響が少ないIPS(in-plane-switching)モード、米Corning社の「Gorilla Glass」に代表される筐体表面への化学強化ガラス、そして静電容量型タッチ・パネルの採用などです。これらの技術は、Apple社の採用を機に、スマートフォンやタブレット端末で一般的になったものばかり。インセル型が、次期iPhoneに採用されれば、競合他社の採用に影響を与えかねません。

 こうした動きに危機感を募らせるのが、外付けのタッチ・パネル・メーカー。対抗策として取り組むのが、スマートフォンやタブレット端末の筐体表面に使われる化学強化されたカバー・ガラスに、タッチ・センサを形成する「カバー・ガラス一体型タッチ・パネル」(以下、カバー・ガラス一体型)です。機器メーカーにとってのメリットはほぼ同じ。2012年は、スマートフォンを舞台に、二つの新技術が激突する1年となりそうです。

 インセル型とカバー・ガラス一体型――。二つの新技術の市場および開発動向は、日経エレクトロニクス2012年5月14日号の解説「新タッチ・パネルが激突、業界勢力図を塗り替える」にまとめています。ご興味がある方はご一読願います。