日本能率協会コンサルティングが、中国の製造現場のコンサルティングを始めたのは1980年代の半ば。勿論当時はコンサルティングというものではなく、工場現場改善研修といったものであった。それはODAの一環で海外技術者研修教会(AOTS)が企画し、我々の先輩が大連に出向いて1カ月連続で工場の改善を指導するコースだったと記憶している。そのコースは好評で、その後天津、北京などで行われた。筆者が初めて中国の工場を訪問したのは1992年で、いくつかの工場を訪問し、午前中は生産現場の現場診断、午後は工場診断結果をもとに生産性向上の見方や改善視点の話しをするということを実践してきた。

 実際にコンサルティングを始めたのは2000年代に入ってからで、その経験をもとに「コンサルタントがみた中国の工場事情」という本を出版した。その続編は北京オリンピックの翌年、2009年の春で「続、最新中国の工場事情」という本を、やはりコンサルタント自身が実際に見たり、聞いたり、経験したりしたことをもとに出版した。

 その前書きにおいて、中国ものは「生もので」ちょっと日が経ってしまうと全然違うものもあるといったことを記述した。筆者自身もその本を出した当時は、月のうちの半分近くは現地にいた。コンサルティングという仕事柄、日系の企業はもちろんのこと欧米系の企業、中国の国有企業、民間企業を訪問し、さらにはいろいろな業種に顔を出していた。最近は時々しか行かなくなり、筆者自身は本当に中国の最新事情が分からなくなってきたと言うこともあり、今のコラムでは現地で実際にコンサルティングをしているコンサルタントに「コンサルタントが見た中国の最新工場事情」を紹介してもらう。現場レポートといった感じでとらえていただければ良いかと思っている。ただし仕事柄、企業名はもちろん守秘義務に関わることは避けねばならず、このことはご理解いただきたい。

 中国については「速い」「広い」[近い]というのが一つの見方だと思っている。「速い」は先に触れたように改革の速度、変化の速度、成長の速度が「速い」ということだ。その変化を捉えることもなかなか難しい。2006年~2007年頃だろうか、中国の農村部から沿岸部に働きに来る若者の多くは、自身で働いた賃金の多くを田舎の家族に送金していた。それにより弟たちが進学するなどの話も良く耳にした。兄弟といっても必ずしも実の兄弟でなく、従兄弟もそれに含まれている。ところが最近の話だと故郷に送金するよりも自身でいろいろなものを買ってしまい、お金が無い人が増えたとい話もあるようで、お金のため方や使い方を企業が教育することもあるようである。この様にわずか数年で全く違う状況が生まれるのが特徴の一つなのだろうと思う。

 二つ目は「広い」ことである。広さについて、なかなか実感が持てないと思う。でも実際に現地に行った人は、いくつか実感したことがあると思う。例えば言葉の違いである。あるとき北京の北へ行ったことがある。日本人同士でタクシーに乗り、何とか行先を告げた。その時、「あなた達はどこから来たのか」と聞かれたので、「上海から」と答えた。少し長距離の移動だったので途中で運転手の知り合いが乗ってきた。しばらく走っていると、途中から乗ってきた人が突然「あなた達は上海人ではない」と言いだした。最初の運転手は、どうやら我々の日本語の会話が上海語と思っていたようなのだ。国が広いと言葉の違いがああり、聞いた事もなければ判断もできないということの様である。中国は広い。

 そしてもう一つの特徴は「近い」ことだ。ものづくりに携わっていると、この「近い」という認識が重要となる。福岡の人は東京に飛行機で移動するのも上海に移動するのも移動時間に違いがない。その距離の近さも特徴だが、ついいろいろなことを「日本と同じ」と思ってしまう、近さゆえの錯覚もあるようだ。上海地区で、管理技術交流会と言う会を企画して実施したことがある。異業種の交流も兼ねたこの集まりを開催してみてわかったことは、現地出向者の多くの人は、自社(自工場)と宿泊先の往復だけ。話しをするのは日本人同士、週末の集まりも日本人だけ、連絡先は日本の本社、技術支援は日本から――などという場合が結構ある。現場に出て「日本では・・・」と言った途端、横を向かれたり嫌な顔をされたり、無視されたり(これが多いようだ)という経験はだれでもあると思う。近いので同じと思ってしまうこと、これは意識して避ける必要がありそうだ。現地化を大事な方針に入れている企業が多いのは、そんなことが理由かもしれない。

 さて“中国「世界の工場」終焉か?”というニュースが流れており、確かに人件費の高騰はじめいくつかの問題が出てきている。昨日聞いたニュースでも、ある地区で多数のヨーロッパ系企業の撤退がみられるといった内容のものがあった。しかし、数年前から中国は単なる「ものづくり拠点」ではなく「有望なマーケット」だと言われてきているわけで、きちっと見ていくことが必要なのだ。

 次回以降は、現地でコンサルティングしているメンバーから「コンサルタントが見た、中国の最新工場事情」をお届けする。