当該ベンチャー企業がその創薬合成技術の開発に成功し、企業価値を高めた時点で、IPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)などを実施する。場合によっては、切り出した元の企業が合併する可能性もある。

 このカーブアウト方式による企業価値向上では、「ゲーム用のソフトウエアなどで成功事例を持っている」と説明する。

 “知財インジェクションモデル”による企業価値の向上を手がけた経験から、最近は「“知財インテグレーションモデル”という表現の方が実態に近いと思うようになった」と説明する。世界的に、オープンイノベーション化の流れが強まり、新規事業に必要な知的財産を集めて迅速に事業化するやり方が増えているようだ。

 知的財産ファンドの進め方のモデルとして、“知的財産プールモデル”というやり方も、あるが、DBJキャピタルとしては原則、あまり力点を置いていない。

 しかし、この“知的財産プールモデル”が有効と判断できるケースが現れ、「DBJキャピタルが部分的に手がけたケースも現れた」という。「九州工業大学大学院の温暁青教授の研究グループが研究開発した、LSI低消費電力テストの技術の成果を基にした特許プールを管理・活用するSPC(特定目的会社)のLPTEXを設立し、投資したケースだ」という。同社の設立は九州工業大学とDBJキャピタル、テクノエクセル(東京都港区)の3者の合意の上で、実施された。「DBJキャピタルが特許の活用を目的とした企業に投資するのは初めて」と説明する。

当該特許が持つ特徴や強みなどを数値化する
特許分析ツールを活用

  山口取締役は知的財産ファンドを運営してきた経験から、「各特許が持つ特徴や強みなどを測る特許分析ツールの利用がポイントになる」という。分析対象となる特許を「公開済み特許群と比較するなどのやり方で、対象特許の競合状況や強みなどを把握し、ある種の“格付け”を行うやり方」と説明する。「特許の“質”を数値化した評価指標を活用することが重要になると感じている」と、経験則を語る。

 投資対象企業が持つ特許の格付けを手がかりに、当該技術の新規性や新規性、ライバル技術による代替可能性の有無、市場性などのマーケッティングなどを加味し、技術評価リポートを作成する。これを基に、新規事業のビジネスプランを評価し、当該企業の価値を評価して、投資判断しているという。また、特許評価は技術分野ごとや企業単位ごとにも分析し、競合他社が持つ“強い特許”も考慮しているようだ。

 知的財産ファンドの運用体験から「日本では、ベンチャー企業などの経営人材の不足がまだ大きな課題になっていると感じている」という。研究開発資源の集中のさせ方や、競争戦略や事業構想力を練り上げられる人材を増やさないと、「知的財産の事業化・価値化はできないため、日本が強い研究開発力を生かす道が細くなっている」と指摘する。

 最近、日本の大手電機メーカーは魅力的な製品開発とその市場投入につまずき、巨額の赤字を出している。こうした状況を打破するためには、研究開発成果である技術を基にした特許の事業化がカギを握る。ベンチャー企業などの経営人材の不足という大きな課題をどう克服するかが問われている。