技術系企業にとっての朗報は、製品やサービスだけでなく技術や素材もブランド化できるということです。ユニクロの「ヒートテック」はそれ自体がブランドとなっており、ヒートテック素材使用の洋服は他より高くても飛ぶように売れていきます。実は、B2Bの素材メーカーが新素材を開発してブランド化することは3Mのような素材メーカーでは古くから行われており、素材を「Scotchlite」「Thinsulate」などのようなブランドとして育てることにより高付加価値・高価格型ビジネスを推進しているのです。B2Cでも、例えばキヤノンのコンパクトデジカメの心臓部である画像処理プロセッサは「Digic」エンジンと名付けられており、メカに詳しいお客様なら「Digic」搭載であることがキヤノン製品の購入理由の一つになっていると思います。さらに、ちょっと前に話題になったシャープ液晶テレビ「AQUOS」の「亀山モデル」のように、最先端の工場をブランド化することも可能です。これも、先に見た「Heavenly Bed」のように消費者が店頭で「亀山工場で製造したモデル」を指名して多少価格が高くても購入し始めたことがきっかけでした。

 最後にもう一つ。「売らない製品」を用いたブランディングの例です。本田技研の「ASIMO」と言えば誰もが知っているヒト型ロボットですが、巨額の開発費を投じていると思われるこのロボット君、商品としてお金を稼いでいるわけではありません。しかし、各種PRイベントや広告に登場する「ASIMO」はHondaブランドの核心価値を実に具体的かつ魅力的に伝える伝道師の役割を果たしています。本田技研という企業が、Hondaというブランドで何を目指しているのか、その未来への夢を余すところなく伝えるASIMOこそ、売るための商品を超えた「夢を語り共有するためのシンボル」という強力なブランド活性化手段として機能していると思います。
 

ブランド活性化手法そ(2)広告・プロモーションも仕掛け次第

 比較的小規模の技術系B2B企業にとって、広告やプロモーションを利用したブランド強化策はちょっと縁遠く感じられるかもしれません。しかし広告には様々な手法があり、テレビコマーシャルや新聞広告などの巨額の投資が必要なマス広告以外にも実戦的なやり方はいろいろあります。例えば、米国のマクドナルドが2007年にシカゴ市内で実施した「Living lettuce billboard」という秀逸な屋外広告があります。これは、マクドナルドのサラダ商品を広告するための特別な屋外広告で、巨大な看板には培養土が施されその中にレタスの種が埋め込まれており、3週間ほど経つと成長したレタスが「FRESH SALADS」という文字を形成するというメカニズムです。本物のレタスを使ってサラダの広告をやろうという発想も面白いのですが、このキャンペーンの優れているのは口コミを利用した波及効果です。インターネットとモバイル技術のおかげで、昨今の情報発信は一般の生活者が主役となるケースが増えています。「毎日少しずつ育った野菜がやがて文字を形成する看板」などは格好の話題ですから、あたかも実況中継のようにブログや動画投稿サイトに情報がアップされ、それが転送・転載を重ねて視聴者が増幅していきます。一件の屋外広告がその波及効果を含めればマス媒体に匹敵するほどの影響力を持ち得るというわけです。このような手法は「Viral Campaign」と呼ばれ、ウイルスが増殖するように口コミが広がることを企図して行われます。要は情報コンテンツの面白さと仕掛け次第で、低予算でも効果のあるブランド発信は可能だということです。

 また、伝統的な手法ですがPRも欠かせません。PRは企業側が対価を払ってメディアを買って発信する広告とは異なり、基本的にメディア側の取材による記事や番組内での露出です。例えば信頼性イメージを高めるためには、メジャーな新聞や雑誌で記事として取り上げてもらうことは大きな効果を生みます。そのような目で中国新華社発行の英字紙「China Daily」のビジネス欄を読んでいると、(中国企業を除けば)ドイツを筆頭とするヨーロッパ企業の記事が多いことに気づきます。明らかにヨーロッパ発の自動車・素材・エネルギー・食品・ファッションなどのグローバル企業は「China Daily」への情報発信のパイプを構築しているのだと思います。また、インタビューを受ける企業幹部も見出しになりやすく記事を書きやすい具体的な企業戦略を語っているケースが多く、このあたり企業内コンプライアンスと投資家への配慮から慎重な物言いに終始することが多い日本企業の幹部と大きな差があると思います。

 技術系企業にとっては展示会でのブース出展も重要なブランディングの機会です。私も中国で様々な展覧会イベントを実施したり参加したりしていますが、一番残念なのは日本企業のブースにあるのが製品や技術の展示と説明のみで、商談への展開が考慮されていないことです。中国のビジネスのスピードは想像以上です。展示会には「いい物を見つけたらその場で商談したい」お客様がやってきます。展示会は興味喚起でよし、商談は次のステップ、ということではなく、その場でビジネスの話が進められるような商談スペース・中国語のセールスツール・中国語対応のセールスマンなどが備わっていれば、展示会を企業や商品の紹介とブランド強化の機会に終わらせず一気に見込み客開拓の場とすることも可能なのです。

 少々長くなりました。次回引き続き「ブランド活性化手法」の続編をお届けします。