電機・最終戦争—生き残りへの選択、1,365円(税込)、単行本、205ページ、日本経済新聞出版社、2012年1月
電機・最終戦争—生き残りへの選択、1,365円(税込)、単行本、205ページ、日本経済新聞出版社、2012年1月
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 「そうか、会食の締めは“稲庭うどん”だったのか。うーむ…、なるほど」。

 日本経済新聞や日経産業新聞は、仕事の関係上、毎日読んでいる。特に電機メーカーの動向記事には、常日ごろから目を光らせているつもりだ。だから、日本経済新聞社が苦境の電機メーカーについて書物をまとめたと聞いても、「まあ、大方知っていることばかりだろう」と、たかをくくっていた。実際、最初の1章は想像通りの感触だった。

液晶パネル合弁の裏で

 しかし、2章の「液晶パネル大統合」あたりから、グッと引き込まれてしまった。

 東芝と日立製作所、ソニーの3社が液晶パネル事業を統合して誕生させた「ジャパンディスプレイ」。同社誕生の直前、日立製作所の首脳と台湾鴻海精密工業の董事長であるTerry Gou(郭台銘)氏が料亭でなごやかに会食し、「あの件はもう少し待ってくれ」なんて、意味ありげな密談があったと書かれている。こうなると、ページをめくる手が止まらなくなってしまう。

 中でも感じ入ったのは、冒頭紹介した“稲庭うどん”だ。前述の会食の締めに、供されたという。単に「会食した」というだけではなく、「締めには稲庭うどんを食べた」と書いてあるだけで、「この人たちは、身近にすり寄って取材して書いている。もっと知っているに違いない」と、想像が勝手に膨らみだす。

 まあ、本当にうどんを食べたかどうかは別として、読者を引き込むために細かい配慮をしていることを感じさせる。興味ある内容に関しては、ほんのわずかなディテール情報が追加されるだけで、読者への大きなサービスになるということだろう。

復活へのカギは

 読み進むうち、暗たんたる気持ちになる。日本の電機メーカーにとって、苦境からの出口は遠い。そのような状況に、テレビや液晶パネル、半導体だけでなく、精密機器メーカーなども陥りつつあることが読めてくる。エネルギー分野も、決して安住の地ではない。

 じゃあ、どうすればいいのか。復活へのカギは何か。本書の最後にある業界の有識者インタビューが、そう感じた読者への答えと言えるものだろう。

 ただ、この部分はもう少し長いページで読みたいところだ。今ほど、“電機メーカー復活の方策”に関心が高まっているタイミングは無いだろう。そのあたりは、本書の次回作などに期待することにしよう。

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