そこで役立つのが「部活」です。途上国で活躍するNPO団体の活動に参加してみる、あるいはこうした団体が主催するセミナーで話を聞いてみるだけでもいいでしょう。そうした場には、自分の開発分野に直接関係しないテーマであっても、開発者の悩みを解決するヒントが転がっている可能性があるのです。

 米国に「Kopernik(コペルニク)」というNPO団体があります(Webサイトはこちら)。国際連合で働いていた中村俊裕氏などが2010年に立ち上げた団体です。「技術を貧困層に届ける」ことで、途上国の生活を改善する活動を手掛けています。その事業モデルは、寄付者からの資金で製品を作り、途上国の生活者に使用してもらうというもの。そこで使われる技術は、先進国の企業や大学で開発されたものです。

 つまり、コペルニクは技術を開発する「企業や大学」、資金を提供する「寄付者」、技術のユーザーである「途上国の生活者(団体)」の3者を結び付ける活動を手掛けています。それによって、途上国の生活水準を引き上げようとしているわけです。

「開発」の意味が違うことに驚き

 例えば、太陽電池を使って発電し蓄電する機能を備えたLEDランタン。電気が届いていない途上国の無電化地域で、煙害のない経済的な明かりとして、現地の生活を支えています。このほかにも、水道設備がない地域向けの簡易型浄水装置や、バイオマス燃料で効率的に調理できる機器など、技術を本当に必要とされている場所に届ける活動を進めているのです。

 この団体が主催したセミナーに部活として参加し、「『開発』という言葉の意味が違うことに驚いた」という感想を抱いた通信機器メーカーの技術者がいます。「製品開発だけが『開発』だと思っていたけれど、社会的な課題の解決に技術が生きる。社会の改善につながるすべての活動が『開発』だと初めて知りました」。

 これはちょっとした「気づき」でしかありません。でも、実はこうしたほんの少しのインスピレーションを得られる機会こそが大切だと思うのです。この技術者は、自分の発想の枠が広がったことで、自社の製品が実際に途上国でどのように役立っているのかを、改めて調査しようと考えたといいます。

 「世界には通信機器の有無で生活水準が大きく変わる人々がいる」。当たり前と言えば当たり前ですが、そのニーズの本質に気づいた状態で製品を開発するのと、知らないまま開発するのでは,結果は自ずと変わってくるでしょう。

 例えば、現地の農業従事者にとっては「現在の気候で、いつ肥料を撒いたら効率的なのか」「どの市場に持っていけば、高く売れるのか」といったタイムリーな情報は重要。ユーザーの収入に直接関わる情報だからです。こうしたBOP市場のニーズに向けて、動き出している大手企業も世界には少なくありません。前述したM-PESAは好例です。