さて、情報、物質の次はエネルギーである。電子計測器&システムガイドブック2001(日本電子機械工業会編)では、「石炭→石油→メタン」という変遷で解説した。石炭で動く戦艦が石油で動く航空機に負けた第二次世界大戦が「石炭→石油」への象徴と論じた。しかし、とどめは原子爆弾だった。その意味で、「石油→原子力」が分かりやすい予想である。

 しかし、どうも筋が悪いと感じた。1995年に新潟県巻町の住民投票で原子力発電所(原発)の建設が否定された。これでは原発新設は無理だと当時、判断した。それで、「石油→メタン」という予想となった。

 もっとも、21世紀になって原子力推進派からの巻き返しが行われたことは、ご承知のとおりである。地球温暖化からCO2削減、CO2削減の切り札としてゼロエミッションである原発推進という論理だった。これは、国内だけでなく世界の流れであった。その流れも2011年3月11日の 東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所のメルトダウンで行き場を失った。そして、国内のすべての原発が2012年5月5日に停止した。

 代替えの主役は、もちろんメタンである。LNG (Liquid Natural Gas)、液化天然ガスはメタンが主成分であり、LNGを用いた火力発電が現在の電気エネルギーの主役である。中東の資源開発もガス田が主役である。ご承知のように、エネルギー問題に悩まされた米国もシェールガス(頁岩に含まれる天然ガス)で息を吹き返している。悲しいかな、予想通りメタンの時代である。

 もっとも、私の予想は現状というよりは循環を意識したメタンの時代であった。水をソーラーパネルからの電力で電気分解して水素と酸素を作り、それを燃料電池で反応させて電気を作るという循環であった。それでは、水素の時代といえばよいだろうとお叱りを受けそうだが、水素は貯蔵や輸送が難しい。その点、メタンは都市ガス利用者の自宅まで既に輸送経路が出来ている。もちろん、貯蔵技術もそろっている。それで、メタンの時代であった。

 今から考えれば、「エネルギー、水の時代」と大見えを切ってもよかった。21世紀は水の時代。無限にあると思えた水が枯渇し、偏在し始めており、水を制するものは世界を制することは多くの方がご存じである。ユーラシア大陸、アフリカ大陸、アメリカ大陸では砂漠化が進む一方、台風、豪雨、竜巻、洪水などの被害を受ける地域が増えている。日本は渇水というよりは、異常気象。今年も春なのに、台風並みの低気圧が猛威をふるっている。

 エネルギー問題は、CO2増加による地球温暖化という未来の話ではない。今、起きている異常気象がエネルギー問題である。日本の西、アジア諸国が数十億の人口を抱えてエネルギー消費を増大させている。天気は西から変わる、現在の異常気象は一過性ではない。異常は定着しつつある。覚悟が必要である。

 もっとも、目先の異常気象対策は先の話。目下は、原発が停止したエネルギーの穴埋めに忙しい。ソーラーだ、風力だ、燃料電池だ、二次電池だ、スマート○○だと姦しい。それはそれで結構であるが、もっと安く、もっと簡単な回答を考えよう。それが、「エネルギー、水の時代」である。それは、先に話した電気分解だけでなく、物質としての水そのものの利用である。

 原発の肩代わりにガス発電が活躍している話はしたが、もう一つの主役が揚水発電である。余った電力で水を汲み上げ、必要な時に水力発電する仕組みである。確立した技術であるので、これから開発する二次電池に比べて低コストかつ速やかに普及させることができる。

 もちろん、電力会社が運営する大規模な揚水発電場所は限られているのだろう。しかし、東日本大震災の教訓は自立である。自分のことは自分で守るということである。それには、昔あった給水塔が魅力的に映る。

 災害時には水と電力の確保が必須である。給水塔には水はある。しかも、高所に蓄えられている。この水の位置エネルギーを利用すれば電気も起こせる。正に災害対策向けの設備が給水塔である。

 もっとも、供給される水圧が上がったためと衛生管理の問題で全国から給水塔とアパート屋上の給水タンクが無くなりつつある。災害対策から見ると非常に残念である。高価な燃料電池や二次電池に投資する前に、給水タンクや給水塔を見直してはいかがだろう。

 技術屋は新しいことをしたがる。しかし、被災した国民や被災を恐れる国民は即効性のある安価な対策を切望している。単純な水利用、再考いただけばエネルギー問題も進展するかもしれない。風力や太陽光のゆらぎを二次電池で吸収するよりも給水タンクで平滑化する方が単純で効果的だと思う。そうなれば、21世紀のエネルギーは水の時代という新しい予測も生きてくるだろう。

 燃料電池は電気と水を作りだす。ゴミはメタンや水素を作る。そして、水と電気からは水素と酸素が生まれる。排出したCO2からは樹脂製品が作れる。「エネルギー、水の時代」は本当の循環型社会への転換点である。