薄手のジャケットでも汗ばむほどの陽気となる5月の上海。この時期は、美しい並木の続く町の散歩が楽しい。とりわけ都心部の南側に広がる旧フランス租界は、往時の面影を今に伝える洋館の残る町並みに、新緑と白い幹のプラタナスがよく映える。

タイトル
上海の旧仏租界の路上にひっそりと置いてあった「タバコ・冬虫夏草買い取ります」の看板

 ふと視線を下ろすと、街路樹の根元のところどころに「高価回収」と書かれた看板が立て掛けてあるのが目に付く。読んで字のごとく「高値で買い取ります」という意味。続いて「中華・冬虫夏草・五粮液」などと買い取り対象の商品がいくつか書いてある。

 中華は中国産の高級タバコの銘柄、冬虫夏草は精力増強から皮膚病にまで効くという万能の漢方薬、五粮液は五穀で作った蒸留酒。いずれも中国ではギフトの定番商品なのだが、共通するのはそれだけではない。贈る側、贈られる側とも換金することを前提にした商品、平たく言えば「賄賂用」なのである。

 例えば中華の価格は1カートン650元(1元=約13円)だが、業者はこれを530~550元で買い取る。五粮液の中でも高級品のアルコール度数52度のものは店頭価格が900元前後だが、買い取り価格の相場は直近で700元前後とのこと。

 もちろん、自分で吸ったり飲んだりする場合もあるのだが、中秋節や春節(旧正月)など贈答シーズンには、タバコが10カートン、20カートン、高級酒が50本、100本という単位で「集まってしまう」立場にある人物もいて、「扱いに困って」これを下取りに出す。買い取られた商品は業者が手数料を上乗せした上で再び市中に出回る。これを中国では「礼品産業鏈」、すなわち「ギフトの産業チェーン」と呼ぶ。

 ギフト市場の動向を研究している中国礼品産業研究センターが今年2月、中国国家統計局、商務部が公開したデータを基に算出した統計によると、市場規模は7684億元前後というから日本円で10兆円市場。中国のニュースサイト『太原新聞網』(2月1日付)によると、最近は、デパートやコンビニ、スーパーで使えるプリペイド型の電子マネーも人気だ。検索サイトでプリペイド電子マネーの中国語「預付卡」と入れると、未使用のものを換金する業者がごまんとヒットする。

 ギフト市場にはもちろん、役人以外の人を対象にした贈答も含まれる。上海の結婚前のカップルの場合、ガールフレンドにねだられて米Apple社のスマートフォン「iPhone」を買い与え、男は安いフューチャーフォンを使っているというケースは少なくない。福利厚生として従業員に電子マネーを配る企業もある。ただ、先の太原新聞網によると、全国の共産党幹部が断りきれずにいったん受け取った上で上部機関に届け出た商品券や電子マネーは2011年、合わせて3億8600万元、幹部の数は4万人に上った。ギフトを贈られる対象はやはり圧倒的に党や政府の役人なのが現状だ。