プラットホーム戦略が大きく転換

 冒頭で述べた従来のプラットホーム共有化と大きく違うのは、デザイン・設計の源流段階から10年程度先までの商品を同時進行で開発していく点だ。将来出す製品でも一気に部品の共通化を進めていく。

 これまでのトヨタの開発スタイルは、プラットホームを共有化していると言いながらも、個別の車種ごとにチーフエンジア(CE)が存在しているために、搭載する部品は個別に設計したり、後発車種では設計を大幅に見直したりするなど、個別最適の設計をしているのが実態だった。ここを見直す。プラットホームが同じあれば、部品や構造(レイアウト)を徹底して共通化する。たとえば、同じプラットホームでも、車種によってエンジンルーム内のレイアウトは違っていたが、今後は統一化していく。これにより部品や取り付け作業の共通化も進み、効率性が増すと見られる。

 ただし、価格や車格によって性能は当然違ってくるので、性能までも共通化することはしない。部品やレイアウトの共通化を推進しながらも、「車の味付け」は変えるという力がエンジニアには求められる。そこを見誤ると、お客から「コスト優先の車づくり」との批判を招きかねないからだ。

 個別最適からの脱却のために組織も見直す。車種ごとにいたCEを、車種群担当として大括り化して、車種群全体の開発に責任を持たせる。さらにCEは担当の車種開発が終われば人事異動で交代していたが、こうした習慣も改め、継続的に商品群を改良していく仕事の進め方を導入する。長期的視点で商品開発に取り組むための組織改正と言える。

 合わせて調達方針も車種群ごとにまとめて発注するように大幅に見直す。下請け部品メーカーに影響のある部分だ。部品の共通化が進むことで、複数の車種でまとめて発注する。さらに、これまでは同じ部品であっても国・地域別に発注先が違っていたが、原則としてグローバル規模でまとめて発注することで、コスト削減を進める。

 すでにトヨタの小澤哲副社長は昨年11月の中間決算発表の際に、部品や材料の「トヨタ基準」を見直す方針を示している。たとえば、変速機向けの鋳造鍛造品などの材料は日本製を使うといった「トヨタ基準」があったが、それを改めて海外製でも使えるようにする。この背景には、グローバル調達を加速させる戦略がある。

 こうした手法で開発した新車が2014年頃から市場投入される。製造原価は2割程度下がる見込みで、浮いた原資は新商品開発向けに回す考えだ。

 トヨタに限らず、自動車産業では今、プラットホーム戦略が見直されている。同時にこれまでとは違う長期的な製品計画と連動して部品や構造の共通化を推進している。この2つを捉えて筆者は「設計革命」と呼ぶ。VWが早くからそれに取り組んでいる。日本ではマツダも「コモンアーキテクチャー」と呼ばれる同様の設計革命を展開している。日産自動車の設計革命は「コモンモジュールファミリー」と命名されている。

VWの方式は「レゴブロック」的と言われることがある。玩具のレゴブロックのように車種を超えて共通化した部品の塊を組み合わせていくイメージだ。日産の場合も、車両を大きく4つのモジュール部品に分けて、そのモジュール部品にバリエーションを持たせて組み合わせていく。現時点で54通りの組み合わせがある。VWも日産も「プラットホームという概念は消えた」と説明している。マツダも同様の考えだ。

 特にVWと日産の車づくりは「パソコン化」しているようにも見える。車の構造がパソコン化しているという意味だ。ただ日産は「モジュール間の相互作用が安全面にも影響するため、それをどう適正にかつ効率的に繋ぎ合せるかが自動車メーカーのノウハウであり、パソコンとは違ってインターフェースを公開しない」と説明する。

 トヨタも含めて各社によって「設計革命」の方法論は違うが、その根底には、前述したように商品力の強化とコスト削減を同時に展開しなければ、国際競争で劣後するとの共通した危機感が流れている。長中期の商品戦略に基づき車の設計プロセスやそこに至る哲学を変えている点も各社共通のように見える。共通化を進めながらも味付けを変えなければ車ファンは逃げていく。自動車産業のエンジニアの力量が相当に問われてくる。一般の消費者には見えにくい部分だが、自社の命運がかかった新たなる熾烈な戦いが起きている。