2日で生産ラインの長さを変更

 筆者が注目したのは2点あった。ひとつは「治具」の共通化。エンジンのシリンダーヘッド加工の「治具」は、それぞれのエンジンごとに「治具」が存在していたのを、治具の構造を多軸から1軸化することで、トヨタの直列4気筒ならばすべて対応できるようにした。さらにこれまでの「治具」だと取り替えに約4時間必要だったのが、20分で済むようになったという。「治具」の重さは9割以上、投資も4割近くそれぞれ削減できた。エンジンの開発部署と生産技術部署が共同で取り組んだという。

 こうした開発と生産の連動が、前述した製品の多様化とコスト削減を同時で展開していくうえでのカギになる。トヨタでは「工場付き技術部」という考え方をブラジルやインド、南アフリカなどの拠点で導入。本社に依存しなくても現地仕様車を現地主導で素早く立ち上げようという試みだ。こうした発想は、トヨタでは04年から始めた「IMVプロジェクト」で採り入れていたが、これをグローバルに水平展開していく。

 話は少しそれるが、トヨタでは水平展開のことを社内用語で「ヨコテン(横展)」と呼ぶ。巨大な企業でありながら、これまでは動きが俊敏だったのはこの「ヨコテン力」があったからだが、「GM化」したことでこの力が弱くなっていた。そうした意味でも、トヨタの強みを再度鍛え直すということであろう。

 もうひとつ注目したのは、生産量などに応じて長さを簡易に伸縮できる生産ラインだ。まさに「小さく産んで大きく育てる」ためのラインと言えよう。これまでは車体を吊るして流していた組み立てラインを変えて、車体を台に乗せるような形で流す方式を採り入れた。生産ラインの構成自体をユニット化して取り付けや取り外しを行いやすくした。土日2日あれば生産ラインを再構築できるという。すでに昨年秋に稼働開始した米ミシシッピ工場で導入したほか、これから稼働する新興国の工場で順次導入する。

 この「伸縮ライン」のもうひとつの効果は、生産現場の作業者の熟練度合によってラインを長くしたり、短くしたりできる点だ。一般的に、ラインの長さが短い方が生産効率は高いとされる。熟練の「多能工」が複数の工程をこなせるため、作業者も減り、作業スペースも省略化されるからだ。ただ、「多能工」が存在するのは日本中心であり、新興国の工場では技能者が熟練するまでには時間がかかる。こうした場合、未熟な作業者に複数の工程を任せると、取り付けミスが起こるなど品質問題に発展しかねないため、ラインを長くしてでも単純工程を増やした方がいいケースもある。

 現代自動車では、生産性向上のため、できるだけ工程を細分化して工程数を増やすことで仕事を単純化し、一人の作業者が複雑な仕事をしなくて済む方式に切り替えた。現代の動向に詳しい研究者によると、現代の1ラインでの工程数は日本メーカーの約2倍の300近くあり、ラインが長いという。このやり方だと、言葉が通じにくいうえ、熟練度合いが低い外国人労働者を指導しやすい。これが現代自動車の海外工場の生産性を高めることにつながり、グローバル市場でシェアを拡大させていく原動力のひとつになったと言われる。

 トヨタはこれまで述べてきたような生産改革によって、設備投資額を従来比で4割削減できるとしている。そこで生まれた原資を、よい製品づくりに回していく考えだ。