今回紹介する書籍
題名:郭台銘管理日誌
作者:徐明天
出版社:浙江大学出版社
発行日:2011年4月

 今週も、シャープへの出資で注目を集める台湾企業「鴻海(ホンハイ)」のCEOである郭台銘の語録『郭台銘管理日誌』を紹介する。

 今週は本書のうち「製造」「科学技術」「品質」の分野の発言に絞り紹介していきたい。ここからシャープの今後の戦略に関わる彼の考え方を垣間見ることができるのではないだろうか。

 鴻海のブランドである「富士康(foxconn)」の方向性について、郭台銘は「広深高速」という言葉を用いて説明する。「広」というのは、製品の「多元化」を指す。富士康は電力・機械設備からパソコン、通信網などの方面にもその市場を広げてきた。「深」は専門的で緻密な商品の製造、「高」は高度な一貫生産を指す。そして最後の「速」はインターネットを単なる技術と捉えず、新しいサービスの形態としてとらえていく姿勢を指すのだという。この発言は、もともとOEM(他社ブランドの代理生産)から始まり伸びてきた鴻海だが、次のステージに進み、総合的なメーカーとして伸びていくという方向性を明確にしたものなのであろう。

 その一方、本書では「金型は工業の母である」という郭台銘の言葉も紹介している。先週も述べたとおり、鴻海は金型を基礎にして発展してきた企業である。それゆえ、現在でも郭台銘は金型を引き合いにして物事を述べることが多いという。エンジニアの大会で郭台銘が発言した以下の言葉を紹介しよう。

 ある国の「強さ」を見るには、その軍事力ではなく、工業のレベルで見なければならない。そして、その工業のレベルを表すのが金型の完成度である。つまり、一つの国の強さを見るのには金型のレベルを見ればよい。金型は工業の母であり基礎である。生活関連の工業から情報産業、自動車産業、軍事工業まですべて金型と無縁ではないのだ。

では、彼らの製品が下支えしている「科学技術」というものに関しては、郭台銘はどのように考えているのか。本書は科学技術の専門書ではないため、一般の読者にもわかりやすい表現が続く。

 「頭脳を以て事に当たれ。手を使うな」
 「科学技術はとてつもなく高いところにある。富士康はひたすらそれを追い求める」
 「オリジナルの技術+ツールの進化+大量生産=中国は負けない」
 「科学技術には更なる規律が必要」
 「我々の製品に限界はない」
 「技術者は実験室を出よ」
 「イノベーションは経験の蓄積から」
 「基本をしっかりやれ」

 ここから読み取れるのは現場主義からくる科学技術への真摯な態度である。また、彼はこのようにも言っている。

 「科学技術がなければ優れた品質もあり得ない。」

 このように科学技術、品質に関する発言を見ていくと、郭台銘は産業と科学技術に対しては大変バランスのとれた(穏健な)スタンスを保っており、あまり過激な発言は見られない。

 だが、本音を言えば、このような穏健な発言ばかりだと、語録を読んでいても退屈なものである。しかし、後半の、「人材」「文化」「実行力」「学習」「リーダーシップ」などの章にはなかなか刺激的なものが多く、引き込まれた。次回は本書の後半部分から、興味深い発言を取り上げていきたいと思う。