今回紹介する書籍
題名:郭台銘管理日誌
作者:徐明天
出版社:浙江大学出版社
発行日:2011年4月

 今週から3週にわたって紹介するのはシャープへの出資で注目を集める台湾企業「鴻海(ホンハイ)」のCEOである郭台銘の語録『郭台銘管理日誌』である。この「管理日誌」シリーズは、レノボの柳伝志、ファーウェイの任正非、アリババの馬雲など、多くの著名CEOの語録を「一日一語」にまとめた人気シリーズである。本人の発言の中でも有名なものが網羅されているため、一冊読むと、考え方のヒントが得られると同時に、その人物の考え方のアウトラインがわかるつくりになっている。

 本書の解説に入る前に、簡単に鴻海と郭台銘についてご紹介しておこう。

 郭台銘は1950年台湾生まれ。1966年に台湾の「中国海事専科学校」に入学したが、家が貧しかったため、働きながら苦学して卒業した。兵役を終えると「復興航運公司」に入社。1974年「鴻海塑膠企業有限公司」を創業、プラスチック製品の製造にあたり、白黒テレビのチャンネル用の押しボタンを製造し始めた。1975年には社名を「鴻海工業有限公司」と改称。1977年に黒字転換すると、すぐに日本から金型を生産するための設備を買い付け、これがその後の成長の礎となった。その後、電気メッキ部門やプレス工場などを相次いで設立。80年代に入ると金型技術を基にして、パソコンのコネクタや筐体を製造する業務へと移行し、「大量生産、安価」路線で市場シェアを伸ばした。1982年には再び「鴻海精密工業股份有限公司」と改称し、1985年には米国子会社を設立、その後は「FOXCONN(富士康)」のブランド名とともに順調に成長を続けている。

 郭台銘個人に関して言えば、一男一女の父。2005年に前妻を亡くし、2008年に再婚。再婚時の宴式には台湾の馬英九総統も出席している。

 本書では郭台銘の発言を「成功への心得」「策略」「競争」「製造」「科学技術」「品質」「人材」「文化」「実行力」「学習」「リーダーシップ」「責任」に分け、紹介している。今回はこの中から「成功への心得」の章を取りあげ、郭台銘の思考のアウトラインに触れておこう。

 本書の冒頭で紹介されている名言は「我々は世界最大のメーカーになる」。今となってはこの言葉にも説得力があるが、実は、この言葉が発せられたのは1988年10月である。そして、発せられた場所は中国の鴻海の生産拠点の「第一号社員」たちの面前であった。この状況と言葉から、郭台銘の2つの面が見て取れる。一つは、志大きく、確固とした自信を持った人生に対する積極的な姿勢。もう一つは、この時点で中国の発展を予期していた先見性。この二つが、今日の鴻海の隆盛を導いた背後にあると思われる。

 この章ではほかにも「阿里山(台湾の有名な山)のご神木が大きいのは、4000年前その種が土の上に落ちた瞬間から決まっていた」という郭台銘の有名な言葉が紹介されている。この言葉は「会社ができたその日から鴻海の目標は台湾一、アジア一、世界一の企業だった」という言葉の後に続いて発せられたもの。

 シャープへの出資で日本人にとって急に近い存在になった鴻海。もしかしたら上記の言葉もまた日本で聞くことがあるかもしれない。