さまざまな料理に対応可能
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 日経エレクトロニクスの2012年1月23日号の特集「脱安売りの極意」では、新市場を創出する力を備えた“脱安売り製品”の一つとして、シャープの加熱水蒸気調理器「ヘルシオ」を取り上げました。2004年の初代機発売以来のシリーズ累計出荷台数が100万台を超える大ヒット商品です。

 ヘルシオが火を付けた“加熱水蒸気調理器ブーム”は依然として続いているようで、シャープに続けとばかりに、家電メーカー各社が続々と新製品を発売しています。日立アプライアンスが2012年5月20日に発売する加熱水蒸気オーブンレンジ「大火力 焼き蒸し調理 ヘルシーシェフ」もその一つ(Tech-On!関連記事)。同年4月26日に同社が開催した製品発表会では、従来に比べて高温で焼き蒸し調理でき、野菜炒めのような野菜のシャキシャキ感が出せることをアピールしていました。焼き魚やトースト、お好み焼きなどを、裏返さずに“両面焼き”する機能も搭載しています。

 日本において、“世界的にみて最も洗練されている文化”の筆頭は“食”ではないかと私は常々考えています。発酵などを利用した優れた伝統食品が多いことはもちろんですが、近所のスーパーやコンビニで手軽に買える食材や食品のレベルの高さ(安全性や味の良さなど)において、日本は群を抜いていると思うのです。そうした洗練された食文化の延長線上に、油を使わずにボタン一つで野菜を“炒め”たり、裏返しに失敗することなくお好み焼きを両面焼きできたりする、洗練度の高い調理家電が生まれるのだと感じます。

 こうした、世界基準からいえば“異常”といえるほど洗練された文化に支えられた製品分野では、テレビ事業の不振などで苦境にある日本の電機メーカーにもグローバル市場での勝機があるのではないか。2012年4月30日号の解説記事「テレビ不況の電機3社、どう立ち上がるか」を担当し、国内電機メーカーの不振を目の当たりにしていたせいもあって、試食用に出されたシャキシャキの野菜を味わいながらそんなことを思いました。

 もちろん、調理家電などの分野でも、日本で売れ筋の製品を、仕様と価格を変えずにそのまま海外で売ることは難しいでしょう。例えば、今回の加熱水蒸気オーブンレンジの価格は14万円ほど。液晶テレビが3万~4万円で売られていることがザラ、という現状では、決して安価とはいえません。加えて、お好み焼きを裏返さずに両面焼きするという芸の細かさは、ともすると日本市場にしか通じない“ガラパゴス”にも通じかねない。

 それでも、食のように、ある地域に特有の文化やライフスタイルに根差した製品分野にチャンスがあると私が考えるのは、“大量生産・大量消費型”のビジネスモデルが通用しにくい世界だと感じるからです。例えば、加熱水蒸気調理器のような調理家電の世界において、Apple社の「iPhone」シリーズのような一人勝ち製品が生まれるとは想像しにくい。それぞれの地域の文化やライフスタイルを繊細にくみ取った製品が売れる、そこにはハードウエアのカスタマイズが欠かせないと考えます。“ナン”を、窯の内側に貼り付けて焼いたのと同じ風味で焼き上げてしまうインド市場向け調理家電。こんな製品は、日本メーカーが最も得意とするところではないでしょうか。

 とはいえ、調理家電を含む白物家電の世界でも、中国Haier社のように大量生産・大量消費型のビジネスモデルを得意とするメーカーが市場を席巻しています。芸の細かさで勝負できる領域は、急速にニッチに追い込まれつつあるのかもしれません。芸の細かさに、経営の大胆さとスピードを加えてほしい。国内電機各社の決算発表ラッシュを迎えた今、切にそう思います。