別々のファイルに部品一つひとつを分けておくと、後でその部品を他の製品設計に使いやすい。1個のファイルにアセンブリ(組立品)全体を収めると、複数の部品にまたがる修正作業が楽になる。アセンブリを扱う機能は非常に重要だが、CADの種類によってその表現・保持方法には、以上のようなトレードオフがある。

構成情報と部品情報を分離

図1●アセンブリファイルと部品ファイル
図1●アセンブリファイルと部品ファイル
多くのCADで、部品は一つひとつファイルに分かれている。

 現在の多くのCADでは、アセンブリ情報(構成情報)のファイルと、個々の部品情報のファイルが分かれている(Autodesk Inventor、CATIA V5、Creo Elements/Pro、同/Direct Modeling、NX、Solid Edge、SolidWorksなど、*1。アセンブリ情報は、配下の部品ファイル名やサブアセンブリ・ファイル名と、それぞれの位置情報などから成る。通常、アセンブリ情報のファイルの容量は小さい。部品情報のファイルには、部品の3次元形状や、材料などの属性情報が入る(図1*2

*1 アセンブリファイルに部品情報を併せ持たせられるCADもある。
*2 通常は2次元図面ファイルも、部品ファイルなどと並列で管理することが多いが、ここでは省略した。

表●代表的な3次元CADでのアセンブリ保持方法
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 このような形態にするメリットは、複数のアセンブリで部品データを共有しやすいことにある。部品に更新があるときは、部品ファイルのみを更新すればよく、アセンブリファイルを更新しなくてもよい。

 さらに、部品やアセンブリの単位でデータを再利用するときに、該当のファイル(群)を持ってくるだけで済む。ファイル内に部品やアセンブリが埋め込まれていると、いったんファイルを開いて部分を切り出す操作が必要になる。しかも、切り出した部品やアセンブリは元のデータと独立したものになるから、もし修正があれば元のデータと切り出したデータを両方更新しなければならない。

図2●ワークステーション以前のCADのファイル
図2●ワークステーション以前のCADのファイル
複数の部品を一つのファイルで管理していたが、容量が大きくなり過ぎて扱い切れなくなり、ファイルを分けるようになった。

 複数の担当者が分担して設計を進める際にも、ファイルが1つでは複数人が同時にアクセスできないが、ファイルが分かれていれば各人がそれぞれ担当ファイルを占有できる。

 1980年代以前の汎用コンピュータのCADでは、部品別にファイルを分けず、1つのファイルにまとめるのが普通だった(図2)。しかし、CADの利用が進むにつれて大容量のファイルを扱うようになり、当時のコンピュータでは扱いが難しくなりつつあった。ファイルを細かく分けることによって、個々のファイルの大きさを小さくする目的もあったと考えられる。

インスタンスとコンテンツを分離

 Creo Elements/Direct Modelingの場合は、ファイル構成がさらにきめ細かく分かれる。アセンブリ、部品それぞれについてインスタンス(引用元)とコンテンツ(実体)のファイルがある。インスタンス・ファイルには部品名、位置、配置の基準となる作業平面などの情報が入る。コンテンツのファイルには、部品の場合は3次元形状、アセンブリの場合には配下のサブアセンブリ名とその位置などが入る。

 インスタンスとコンテンツを分けるのは、設計中のデータ変更を容易にするためと考えられる。インスタンスは部品やアセンブリにとって、その近隣との「インタフェース」に関する情報であり、これは近隣の担当者と共有している必要がある。しかしコンテンツは主に、個々の担当者が占有する。インタフェースを変えない限り、その内部ではコンテンツを自由に変更できることになる。