中国のジョブズはどこにいるか

 昨年の年末、ジョブズの死去で、中国ではどうしてジョブズがうまれないかという議論がメディアでは大きく取り上げられた。政府要人も公の場において、中国のジョブス、中国のアップルが必要と呼びかけた。しかし、世論や有識者は中国の現体制では、ジョブズのようなイノベーター、アップルのようなイノベーション企業は育たないと指摘する。

 例えば、元科学技術省の大臣・徐冠華氏はメディアからのインタビューにおいて、ジョブズは市場競争の環境から生まれたので、政府はジョブズを作れないと強調した。あるポータルサイトが実施したアンケート調査では、中国においてイノベーターが生まれるための重要な要因として、上位の四つとして以下のものを挙げた。

(1)個人と企業の創造力が充分に発揮できる、自由かつ公平な社会環境と市場環境
(2)教科書に載っている知識の「詰め込み」学校教育ではなく、好奇心、想像力、批判的な思考力の育成システム
(3)手段を問わずにモノマネでもよいという利益獲得の商業文化から、創造を提唱する商業文化へ変えること
(4)失敗を理解する社会、社会の多様性が受け入れられる
(コラムのバックナンバー「三つの阻害要因」参照)

 ネットでは、もし中国にジョブズがいたとしたら、ジョブズはきっと全国人民代表大会(日本の国会と相当)の代表になり、政府機関の要職に務め、本業に集中できないだろうと揶揄する声もある。いずれにしても、中国ではジョブズが生まれるのはまだ先のことだと考えられている。

 しかしジョブズは、アメリカにとっても100年に1人の偉人である、欧州にも日本にも、この数十年、ジョブスのようなイノベーターはうまれていない。閉鎖から開放、計画経済から市場経済へ転換してから30数年しか過ぎていない中国では、ジョブズのようなイノベーターが、まだ生まれていないのはおかしくない。

 重要なのは、どうしてジョブズのようなイノベーターが生まれていないかに対する問いかける姿勢と、「イノベーション工場」のようなさまざまな試みであろう。