さまざまな「イノベーション工場」

 イノベーション工場は、中国のイノベーション創出のためのさまざまな推進活動の縮図と考えられる。近年、国営や民間、そして中央や地方は、イノベーションの創出に力を入れている。対象となるのは、ICTやバイオ、電池、エネルギーなどのハイテク産業だけではなく、建築や鉄道などのインフラ産業にも拡大した。投入された資金は、中国政府や地方政府からの資金に限らない。民間のベンチャーキャピタルからの資金も急速に増加している。全国数百個の開発区の多くは、インキュベーターを設けている。目標を達成するために、各種の優遇政策が打ち出されて、人材誘致合戦が各地で繰り広げている。

 中央政府の教育省と科学技術省、そして、北京、上海などの大都市はいうまでもなく、地方の都市も負けていない。インキュベーターの育成に大きな目標を掲げている。ここでは、二つの例を挙げてみる。

 中国メディアの報道によると、中国浙江省の2番目の都市である寧波市では、昨年の年末、時代をリードできるイノベーター型の人材、いわゆる寧波市のスティーブ・ジョブズ育成の計画が公表された。5年間で、5000万元(約6億円)を育成計画に投入するという。

タイトル
青島市に本拠地を構えるハイアールの1号門前

 日本でも徐々に名前が知られてきているハイアールとハイセンスが本拠地とする山東省の青島市は、2015年までに総面積が1千万平方メートルとなるインキュベーターを市内に建設する。第十二次五カ年計画期間(2011-2015年)、毎年、400名の博士と2000名の修士を誘致し、イノベーターを育成する計画だ。

 今後、こういったようなさまざまなイノベーション工場から、どのぐらいのイノベーターが育成されるか、どのようなイノベーションが生まれるか、注目されている。

「イノベーション工場」の現在

 それから、2年半過ぎた。李氏のイノベーション工場は順調に運営している。現在、インキュベーターの支援機能としては、ハードとソフトの両面の支援機能が充実している。場所も最初の数百平方メートルから7000平方メートルへ拡大。支援しているベンチャーやプロジェクトは40個。強力なハードとソフトの支援で、イノベーション工場に入っているプロジェクトは技術開発や市場開拓に集中できるようになった。イノベーション工場から生まれて、インタネットサービスを提供するベンチャー企業の独立運営も始まった。

 しかし業界からは、それらがアメリカから誕生したインタネットサービスを真似て作られていたと指摘する声が少なくない。イノベーション工場ではなく、「創業工場」、つまり創業をつくる工場という言い方の方が、もっと適切ではないかとの厳しい評価もある。一方で、イノベーションとは必ずしも斬新な技術や経営モデルではなく、既存技術や経営もモデルの組み合わせ、中国に適応するための改造や改善もその範疇に入るではないかとの声も多い。

 実際に、シリコンバレーでのインターネット創業ブームが始まってから、中国のインターネット企業のほとんどは、C2C(Copy to China)といわれるモデルで誕生と発展をしてきた。最初のポータルサイトから、その後の検索サイト、ビデオ共有、SNS、ネットゲーム、クーポン共同購入サイトなど、すべてと言っても過言ではない。アメリカからアイデアをコピーして、中国の文化や環境に適用させ、そして大きくなった。そういったモデルは、海外での成功経験があるから、比較的にリスクが小さい。

 最初の段階ではC2Cはよいが、その後の持続的な成長のためには、本質のイノベーション、本物のイノベーターが問われるだろう。