[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

 トヨタ自動車は「レクサス GS」を全面改良した。トヨタ自動車が2005年に日本で「レクサス」ブランドを導入した際、最初に発売したクルマが「GS」だった。以来、全面改良は6年半ぶりのことになる。GSの名の由来は、グランドツーリング・セダンであり、走りの良さを身上とする4ドアセダンである。

 新型GSでは、プラットフォームと前後サスペンションを新開発した。そして、世界の道を100万km以上走り込み、走行性能を磨き上げてきたという。今回試乗したのは、GS350とGS250の、ともにversion Lの仕様である。F SPORTグレードでは新開発の後輪操舵技術「DRS(Dynamic Rear Steering)」を採用しているが、今回は、あえて新型GSの素性の良さを確認する目的で、version Lの二つのエンジン仕様を試乗した。

 まずGS350に乗ったが、まだ市街地を走っているうちから、足回りの動きの良さを体感した。それはドイツ車に通じる感触で、タイヤの接地が常に適切に保たれている安心感がある。このことは操縦安定性を的確にするだけでなく、乗り心地も快適にする。「誤解を恐れずに言えば、車体が動くことを気にせずサスペンションを動かすようにした」と、開発担当者は語る。

 路面が鏡のように平らであるなら、車体に余計な動きを起こさせないほうが操縦安定性も乗り心地も良くなるはずだ。だが、実際の道は舗装路であっても細かな凹凸はあり、それによって微小な振動は常に起こる。それにもかかわらず、完璧な舗装路を想定したシャシー設定にすると、タイヤのロードホールディングが損なわれる。

 たとえばドイツ車の操縦安定性は、常にタイヤの接地を保つことによって成り立っている。タイヤが瞬間的に接地を失いスリップしようとしても、電子制御による姿勢安定制御で抑えればいいという発想とは異なる。従って、ドイツ車をリフトアップすれば、驚くほどタイヤが下へ下がっていく。それだけサスペンションストロークを長く確保しているという訳だ。

 今回、新型GSをリフトアップすることはできなかったが、その走行感覚から、ドイツ車と同じくらいサスペンションストロークが確保されているのではないかと思うほど、タイヤの接地性が高かった。このこと一つとっても、新型GSの操縦安定性への信頼が生まれる。

 このシャシー性能と3.5Lエンジンの相性は抜群だった。234kWの最大トルクを4800rpmと比較的高回転で発生する仕様だが、実は、わずか2000rpmで320Nm以上のトルクを出すエンジン特性なので、軽くアクセルペダルを踏み込んだだけでもスルスルと加速し、実に気持ちいい。その加速が、確かなロードホールディングにより、いっそう心地よく感じられる。トラクションが途切れないという感触だ。

 ドライバーの気持ちを高揚させるように、エンジンサウンドをサウンドジェネレータとサウンドマフラーによって調整しているという。その効果もあるのだろう。不快な振動や騒音もなく、滑らかに速度を上げていくさまは、地に足の着いた走りと相まって風格を感じさせる。

 昨今、7速や8速の変速機に慣れた感覚からすると、6速という変速段数は物足りない気がしないでもない。だが、この3.5Lエンジンのゆとりあるトルクによって、それほど回転を上げずに高速道路も巡航できる。

 これに対して、基本的には同じ仕様だが、エンジン性能と車両重量の違いで、2.5Lエンジンを積むGS250の印象は若干異なった。GS350との車両重量の差は30kgしかないが、2000rpm付近のトルク値が240Nmほどの2.5Lエンジンは、1670kgの車両重量に対して出足の加速にゆとりがなく、やや精彩を欠く印象がある。GS350で感じた風格は薄れる。また、軽量で俊敏という感触もなく、新型GSの魅力を存分に味わうには力不足の感じがした。タイヤもGS350と同じ235/45R18で、銘柄も同じものを装着していたが、GS250ではタイヤの上下振動の収まりが十分でない場面もあった。

 ただ、これはGS250の出来が良くないというよりは、GS350の非常にバランスのとれた仕上がりが印象的だったため、比較すると物足りなさが目立つと言うべきだろう。先にGS350に乗ってしまい、今回は試乗の順番を間違ったかもしれない。

 その他に印象に残ったのは、前方視界の良さだ。ドライビングポジションからの視線に対して、フロントウィンドーの広がりや、フロントピラー、そしてドアミラーの位置関係が適切で、市街地から高速道路のコーナリングまで、あらゆる運転状況において前方視界で不満を覚えることはなかった。ドライバーに余計な神経を使わせないことによって、クルマの良さをさらに引き立てている。

 また、ヘッドアップディスプレイも、運転に没頭したいとき、視線の余計な移動なしに情報を伝えてくれて便利だ。一方で、世界最大と自慢の12.3型ワイドディスプレイは、リモートタッチの操作のための情報がドライバー側へ映し出されるため、左側に位置する地図を見るには視線を助手席側へ大きく移動させなければならず、便利とは言いがたい。リモートタッチの取り扱いが、まだこなれていない印象を受けた。
 そもそも画面を見て選択し、決定の操作も、画面を見ながら行わなければならないリモートタッチに類する機能に、私は賛成しかねる立場だ。まして、運転を楽しませたいクルマでは、気が散る原因になると思っている。

 こうした難点はあるものの、新型GSの、中でもGS350の素性の良さ、仕上がりのレベルの高さには強い印象を受けた。世界各地域の担当者が一堂に集まって、実際の道を走って磨き上げた成果を体感させるクルマである。