◇継続したイノベーションを起こすために企業として重要なことは「川上力の強化」


 以上、“もの・ことづくり”企業になるためには、継続してイノベーションが起こせることが必要であると述べてきたが、その実現には「川上力の強化」が鍵になることを強調したい。ここでいう企業の“川上”とは、単にR&D、企画・開発・設計など、企業の上流プロセスだけを指すのではない。下流の生産やサービスも含めたプロセスの中にも、日常のライン業務遂行ではなく、もっと先のことを考える部隊が存在するのが通例であり、その機能を“川上”と定義する。「戦略」「企画」「研究」「開発」「設計」「準備」などの言葉が付く機能・組織だと思えばよい。「川上力強化」とは、それらの機能(組織)が連携して(単独でもよいのだが)、イノベーティブな成果を出し続けられる仕組みにすることである。
 言い換えると「川上力強化」とは、幾つかある川上の機能を強化することであり、商品化の前に戦略的に先を見て技術開発なり、生産プロセス開発なり、新しいサービス方法の開発なり、必要なイノベーションを想定し、ほぼ実用化しておくことである。商品化の時点では単にイノベーションの結果を出すことに集中すればよい。日々の商品化プロセスにおいてイノベーティブなアイデアを考えることも必要だが、その結果を実行することだけをミッションにおかないと現場は混乱するばかりである。

 イメージがわきやすいように、第6回で掲載した“もの・ことづくり”とイノベーションのパターン対応表に、“新結合”(イノベーション)をリードすべき川上の機能名(例)を加えてみた。

表●“もの・ことづくり”“イノベーション”のパターンと“川上機能”の関係
パターン自社のポジションイノベーション(新結合)のパターン
(あえて上位3つ)
イノベーションをリードすべき企業の川上機能例示
ものづくり“ものづくり”●テクノロジー/プロダクト・イノベーション
●プロセス・イノベーション
●マーケティング/セールス・イノベーション
●研究開発、開発設計
●戦略・企画、業務改革、生産技術開発
●戦略・企画(販売・営業)
もの・ことづくり(“こと”前提の)“こと”にマッチした“ものづくり”●マーケティング/セールス・イノベーション
●テクノロジー/プロダクト・イノベーション
●プロセス・イノベーション
●戦略・企画(販売・営業)
●研究開発、開発設計
●戦略・企画、業務改革、生産技術開発
“ことづくり”●M&Aなど企業構造改革イノベーション
●マーケティング/セールス・イノベーション
●バリューチェーン・イノベーション
●戦略・企画(事業)
●戦略・企画(販売・営業)
●戦略・企画(調達・生産・サービス)
“こと”と“もの”の両方を提供●マーケティング/セールス・イノベーション
●M&Aなど企業構造改革イノベーション
●テクノロジー/プロダクト・イノベーション
●戦略・企画(販売・営業)
●戦略・企画(事業)
●研究開発、開発設計
こと・ことづくり“ことづくり”か、それにマッチした“ことづくり”●M&Aなど企業構造改革イノベーション
●マーケティング/セールス・イノベーション
●プロセス・イノベーション
●戦略・企画(事業)
●戦略・企画(販売・営業)
●戦略・企画、業務改革、生産技術開発

 「川上機能の強化」とは、“もの・ことづくり”へのパターン(ポジショニング)を明確にし、表の川上機能例に挙げた組織が、オープン・イノベーションやモジュラー・アーキテクチャなどの考え方のもとに成果を出せるようにすることである。さらに、それが継続的にできる人材育成の仕組み作りも含む。

 次回はもう一段抽象度を下げて、この川上機能が傾向的に持っている課題とPLM(Products Lifecycle Management)の関係について述べていきたい。


参考文献
1) 日野、『実践モジュラーデザイン』、日経BP社、2009年.