<2. モジュラー型アーキテクチャ>
 2つ目のヒントは、上記のモジュラー型アーキテクチャというコンセプトである。1990年代、米国復権の戦略として生まれた、極めてしなやか、かつ、したたかなコンセプトである。例としてよく挙げられるのは、パソコンのようにインタフェースを標準化して、標準モジュールの組み合わせで製品のバリエーションを最適化できる設計の仕方である。
 我々日本人は「標準モジュールの組み合わせで、誰もができてしまうものは価値が低い」と見てしまう傾向が強いように思う。しかし、それは結果だけを狭くみた理解で、実は企業の行く末を決めるほどに潜在的で、大きな可能性を持つコンセプトであることを理解すべきだ。この本質を応用しようと思えば、単に製品の技術視点でのモジュラー設計だけではなく、ビジネスモデルの提供バリエーションを想定して、それを可能にする要素〔第6回で述べたシュムペーターの要素である(1)~(5)を含む〕をモジュールとして捉えて、それらのモジュラー的な組み合わせを“新結合”することで、ビジネス・イノベーションを効率的・継続的に創出できる可能性がある。米Apple社のハードウエアだけみれば、極めて標準に則った小型パソコンなのだが、本質的なビジネスモデルに関わるICTアプリはモジュラー型アーキテクチャをベースとしており、ユーザーが使うアプリはオープン・イノベーションの考え方に沿って育ったものだと筆者は信じている。

 モジュラーデザインについては、日本における第一人者であるコンサルタントの日野三十四氏(現在、筆者も同氏のモジュラーデザイン研究会で教えていただいている)が説く「設計のモジュール化は、設計のやり方をモジュラーデザインにすることであり、製品の多様性と部品の少数化という二律背反課題を克服して両立させること、すなわち少ない部品種類で多様な製品を生み出す能力を身に付けることが目的である」〔参考文献(1)〕という考え方で、日本のものづくり企業の経営層に理解し、実践していただきたいものだと思っている。
 さらに日野氏は「モジュラーデザインとは、最少の部品で将来の製品に対応できるように、事前に“擦り合せ”してモジュラー部品を一括設計しておく技法」と述べているが、“擦り合わせ”を上流からこそやるべき、という意味で大いに意味がある。言い換えると、モジュラー型アーキテクチャを構想する時期にこそ、関係するメンバーが“擦り合わせ”しろ、ということだ。川下(下流)の工程で“擦り合わせ”して勝ち目がある分野は、これからは多く望めない。

<3. 人材育成>
 3つ目のヒントは、イノベーションを起こしやすくする“ひとづくり”(人材育成)である。スペースの都合で多くは触れられないが、企業としての人材育成もますます難しい時代に入ってきたといえる。オープン・イノベーションのアプローチでは、“何をやるか”→“そのために何が必要か”→“それは社内で可能なものか外部調達か”という方向で考えていくが、日本企業の今までの傾向は明らかに“社内の技術として何々がある”→“それなら何ができるか”→“それなら何をやるか”というアプローチであった。最近は少し変化しつつあるのだろうが、縦割りで専門化された組織では俯瞰的な視点を持つことは難しい。その課題に対して“もの・ことづくり”の発想、連携、実行、マネジメントなどに秀でた融合人材の育成がいわれて久しい。
 すぐに良い解決策が用意できるとはいえないが、“もの・ことづくり”と同様に、“国を挙げてのひとづくり”を産学官で取り組むべき時代に入ってきている。このことについては、日本の48の学会を横断したNPO、横断型基幹科学技術研究団体連合(設立趣旨: http://www.trafst.jp/aims.html )の中に「横断型人材育成調査研究会」があり、筆者はその末席を汚している。まだ活動の半ばであるが、科学技術総合リンクセンター(J-GLOBAL:http://jglobal.jst.go.jp/)で「横断型・融合型人材はなぜ必要か?」や「企業における横断型人材育成の現状と課題」などで検索・一読いただくと幸甚である。


◇継続したイノベーションを起こすために企業として重要なことは「川上力の強化」