日本でも数年前にはオープン・イノベーションという言葉をよく耳にしたのだが、最近はそうでもない。大企業における中央研究所機能の事業部門への分散化などの動きを見ると、表向きオープン・イノベーションの大きな潮流には乗ったのかも知れないが、良い成果を上げているという声をあまり聞かない。日本は、特に技術領域を自前で囲い込みがちで、社内で擦り合わせて“もの”にすることが競争優位だと思い込む傾向がある。
 もちろん、擦り合わせが全て悪いというわけではなく、一品ものに近い業種、ブランド品などは、それによって高い優位性を享受できる可能性はある。あるいは、製品全体はモジュラー型アーキテクチャとして、コアコンピテンスであるモジュールについてはあえて自社擦り合わせにして、排他的に技術優位性を持たせることも戦略であろうと思う。ただ、この辺で日本としては、改めてオープン・イノベーションの考え方で世界が大きく動いている実態を見据え、戦略的な動きをしないと、大競争から決定的に遅れをとってしまうのではないかと危惧する。

 本連載第4、5回で“国を挙げての構造改革”について触れたが、実はオープン・イノベーションは、国レベルの構造改革の範疇でもある。しかし、残念ながらオープン・イノベーションをうまく実現するために、日本では十分育っていないものが2点ある。1点目はオープン・イノベーションの理念のもとで、効率良く“新結合”を加速させる“仲介業者”というプレーヤーである。先進技術や“こと”創造に関する高度で専門的なコンサルタントや、小規模でも質の高いシンクタンクが育ってほしい。その人材が、産官学で日常的に流動できる国が、目指す姿だと思っている。
 もう1点は、良いモジュールを効率よく創出する、小回りの利く質の高いベンチャー企業と、それを支える仕組みである。日本では特に、高度な匠の技を持つ小企業の起業化を助ける仕組み〔シュムペーターに言わせると“起業家”(現代では良質なベンチャー・キャピタルやエンジェル投資家)〕が必要である。ソフトウエアなどの領域ではこの構造ができているように思うが、日本の強さである“ものづくり”の分野でも実現すると素晴らしい。

 話が少しそれたが、オープン・イノベーションの考え方は、企業の「川上」機能〔日常のライン業務遂行でなく、もっと先のことを考える機能を指す(後述)〕を担当する1人ひとりという狭い範囲でも十分に有効なものだと思う。筆者としては、1人ひとりがオープン・イノベーションのコンセプトやマインドを理解し、“新結合”(イノベーション)を起こす行動の基軸となるように支援したいと思っている。

<2. モジュラー型アーキテクチャ>