具体的には、同プロジェクトに必要な130万平方メートルに及ぶ工場建物は西安当局が負担して建設するほか、時価250億元相当の土地も無償で提供。さらに、水道、電気、緑化、物流の費用として、西安が毎年5億元を支給する。また、企業所得税については、最初の10年間を全額免除、11年目からの10年間を半額とする「10免10半減」を適用するという。

 中国は2008年から、外資に与えてきた優遇税制の撤廃を段階的に実施し始めたが、それまでは、利益が出た年から2年間は免税、その後3年は半額とする「2免3減」が基本だった。これと比較しても、「10免10半減」がいかに長期にわたる優遇を保証したものかがわかる。

 同紙は、「企業所得税を10年全額免除、次の10年は半減するということはつまり、西安市はこのプロジェクトから、15年間もの長きにわたって所得税を徴収できないということだ」と指摘。その上で、第1期の投資額から換算すると、西安の支給する補助金は総額100億元以上に上るほか、税金の減免も1485億元分で、合わせて1600億元程度に上ることになるとした。

 同紙はさらに、陝西省政府筋の話として、所得税の優遇は省レベル以下の部分のみであり、中央政府に上納する部分については、地元政府が企業の肩代わりをして支払うことになるため、西安当局の実際の支出は1600億元よりも多い2000億元程度になると伝えた。

 これに対して西安市政府は4月19日、陝西省と西安市の当局がSamsungとの間で今月10日にメモリチップ工場の建設で覚え書きを締結。第1期分の投資額は70億米ドル、生産能力は10ナノメートル級のメモリチップ月産10万枚で、年内着工、13年末の稼働を目指すことを明らかにした。その上で、2000億元相当の優遇を与えるとする報道は全く根拠のないものだと反論した。

 ただ、中国政府系のネットメディア『中国網』(4月19日付)によると、中国の半導体業界筋は、「見る人が見れば、西安がさらに優遇を与えたのは一目瞭然だ」と指摘する。

 一連の報道が、西安とSamsungを批判する意図があったのは明らか。ただ一方でこの報道は、Samsungが中国の地方にとって、常軌を逸する優遇を与えてでも誘致したい存在であることを浮き彫りにしたのも、また明らかだ。

 江蘇省昆山に生産拠点を置くEMSのある台湾人幹部は、「日本の技術のみが欲しい台湾系のEMS/ODMと異なり、生産拠点、市場、労働力を提供する形になる中国にとっては、Samsungも大切なお客様だ」と強調。「『対Samsung』でも中国は、台湾とは温度差があることを、日本は頭の片隅に置いておくほうがいいだろう」と話している。