日本の100年企業に学びたい

 「日本には100年以上続く企業が2万社以上あるそうですね」
「どうして100年も企業が存続できるのですか。トヨタの工場見学はもういいから、是非、創業100年企業を訪問させてくれませんか」

 今回の訪問団の要望は、意外なものであった。毎年、日本の自動車産業を学べと名古屋地域を中心にトヨタの工場見学をして、松下幸之助の精神を学ぶとパナソニックミュージアム(松下幸之助歴史館)に行って、その後は、箱根の温泉と秋葉原のお買い物ツアーというのが中国人経営者達の来日コースであった。だいたいこれらのコースを見れば満足、それに私の講義を付けて日本と中国の経営の違いについて学ぶ、もう何年もこんなコースを主催してきた。

 しかし今年は、いつもとは違う要望が出てきた。「どうしても日本の創業100年企業を訪問したい」「100年企業から学びたい」。挙句の果てには、もうトヨタはいいから、「金剛組(578年から1400年以上続く日本最古の会社)」に連れて行って欲しいなどと言い出したのだ。

 これまで、未来志向が強かった中国人経営者達は、古めかしいものはいいから、日本の最先端の技術や経営を学びたいと躍起になっていた。私も彼らの要望を満たすために、常に日本の最先端技術や製品、それらを扱う企業の事例や訪問先をアレンジして用意してきたのだ。それがこの大変化である。これにはびっくりした。

 「どうしたのですか、例年の訪問団とは随分違いますね」

 そう中国人経営者達に問いかけると、彼らは口々にこう言う。

 「今、中国の企業はどんどん潰れています。設立しても、設立しても2年ぐらいで潰れてしまう企業が多いのです」

 「日本にもバブル崩壊はあったはずです。それら経済の変化にも耐えながら長い間、安定して経営している企業の秘密を知りたいのです」

 「先端を追っかけているだけが、経営ではないはずです」

 要するに、彼らがいま求めているのは、「100年以上も続くモノづくり企業がなぜ存続できるのか」という素朴な問いの答えなのである。調べてみると、日本には創業100年以上の会社が2万社近くある。そのうち、200年以上が約1000社、300年以上が約400社もある。

 私は老舗企業研究の専門家ではないので、中国人経営者の前でその秘密について語ることができなかった。そこで、急いで300年続く企業の役員にその秘密について素直に聞いてみた。するとこんな答えが返ってきたのである。

 「我々もなぜ、300年以上も存続してきたか、その秘密は正直言ってよく分からないのです。ただ、強いて言えば、経営に一喜一憂しないことかと…」

 アジアにおける、日本の強み。それは強いイノベーションへの追及、最先端技術への追及だけではないのかもしれない。100年企業。サブプライムショックやリーマンショック、欧州危機など激変する世界経済の中で淡々と存続して雇用を守る企業が日本には多い。そのマネジメントスタイルが再び、日本の強みとして世界から注目されることになるのかもしれない。

■変更履歴
この記事の掲載当初、「金剛組(580年続く日本最古の会社)」としていたのは、金剛組(578年から1400年以上続く日本最古の会社)」の誤りです。お詫びして訂正します。現在、当該箇所は修正済みです。
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