エルピーダメモリが倒産し、米Micron Technology社や韓国SK Hynix社が買収を狙う。巨額の赤字に苦しむシャープの液晶パネルの工場に、台湾のEMS大手のHon Hai社が出資。ソニーが従業員の6%にあたる1万人を削減。

 日本のエレクトロニクス・メーカーが次々と経営不振に陥り、どの企業も生き残りに必死になっています。金融業などに比べると国際競争力があったエレクトロニクス産業は、今までは比較的経営基盤が強固でしたが、とうとう雇用に手を付けざるを得ない状況に。

 もともと、エレクトロニクス製品は技術の変化が激しく、10年もたてば製品、事業そのものがなくなってしまうことも良くあります。例えば携帯機器やパソコンのストレージは、フロッピー・ディスク、CD、MD、DVD、HDD、フラッシュ・メモリと変わってきました。

 一方、エンジニアが専門とする技術は、事業の変化に合わせて、コロコロ変えられるわけではありません。ですから、もともとエンジニアという仕事は年功序列、終身雇用という人事制度に向いていないのです。

 一般論はさておき、電機産業の買収や出資の話題を聞くにつけ、従業員の終身雇用を確保し、株主や債権者などの出資者に報いつつ、海外への技術流出を避ける、といった全ての条件を満たすような再建方法というのは、もうあり得ないという印象です。

 日本でも話題になっている、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授のハーバード白熱教室「正義」の講義のように、関係者(ステークホルダ)によって、正義が異なるのです。

 出資者の立場からすると、事業を一番高く買ってもらう買収や出資が「正義」です。海外の企業が日本企業を買収することで、長い年月をかけて立ち上げてきた技術が海外の企業に流出したり、工場の閉鎖などにより、人を解雇せざるを得なかったりするかもしれません。

 従業員の立場からすれば、買い手が誰であれ、買収の条件が何であれ、自分の雇用を保証してくれることが「正義」になります。事業の買収や出資で厄介なのは、最初に「正義」と思われたことが、数年後には「正義」で無くなってしまうこともある。先端技術開発部門を買収して技術を吸収し、数年経って、吸い取る技術が無くなれば、キーエンジニアだけ引き抜いて部門ごと閉鎖する、というのも良くあることです。