世界各地にMemjet技術を展開(資料:Yole Developpement社)
世界各地にMemjet技術を展開(資料:Yole Developpement社)
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既存技術の延長ではない

 Memjetは単に既存のインクジェット技術に変更を加えたものではない。まったく新しい印刷技術だ。

 Memjet社のプリントヘッド・モジュールは、11個のMEMSプリントヘッド・ダイで構成している。また、五つのインク経路を備え印刷用紙と同じ幅のデバイスを利用する。解像度1600dpiでの連続印刷が可能だ。デバイスのカラー・プリントヘッドには「Waterfall」と呼ばれる技術を採用している。各プリントヘッドが7万400個のノズルを備え、1秒間に9000万のインク滴(1.2ピコリットル)を吐出できる。既存のプリントヘッド技術とまったく異なるという意味で鍵になるのは、ヒーターがCMOSダイに埋め込まれておらず、インク・キャビティ内に浮かんでいるような形で形成される「エア・ブリッジ」構造を採用した点だ。

 では、新技術は既存技術に比べて、どのくらい高速なのか。たとえば、毎分60ページを印刷できるオフィス・プリンタを実現できる。1時間で1万枚の封筒にカラー印刷をすることも可能だ。

 こうした高速化のためには、対応できるプロセサが必要となるが、市場には存在しなかったため、Memjet社が独自に設計した。同社は、高速印刷に最適なインクも考案した。

「Intel Inside」と似たビジネス・モデル

 Yole Developpement社がMemjet社の革新的なビジネス・モデルに注目したのは、Memjet社がプリンタ業界で新しいアプローチを用いているからだ。

 Memjet社は他社とどう異なるのか。第一に、同社はプリントヘッド・ダイとモジュールに関してはファブレス・メーカーだ。また、プリンタの製造や販売は手がけていない。その代わり、よく知られたマイクロエレクトロニクス・デバイスのメーカーからプリンタのOEMメーカーまで、幅広い企業と協業している。こうしたメーカーはMemjet社の技術を用いて「Memjet技術」を搭載するプリンタを製造している。「Intel Inside(インテル入ってる)」のビジネス・モデルと似ているかもしれない。主な収益源は、IPライセンスの提供に加え、インクジェット・プリントヘッド・モジュールとインク、プリンティング・エンジンの販売だ。

 Memjet社は、OEMパートナを通じて「業界で最も高速なインクジェット印刷システムの一つ」や「交換やメンテナンスが最も容易なプリントヘッドの一つ」という評価を得ることに尽力している。現在のところ、同社の技術はオフィス向けプリンタ市場においてレーザー・プリンタと競合している。

 同社が持つもう一つの利点は、いまだ研究開発の面でSilverbrook Research社と極めて強い関係を維持していることだ。また、同社の知的財産は多くの特許によって守られてもいる。