自分自身に当てはめてみれば分かりやすいかもしれません。人は同じ仕事を同じ環境(この場合は生産ラインの状況)で与えられたとき、常に同じパフォーマンスを上げられるとは限りません。「なんだか気が乗らない」というときはパフォーマンスが下がり、逆に「今日はヤル気満々!」というときには上がります。それが人というものではないでしょうか。この「ヤル気のツボ」を上手に押してあげることこそが、組織全体のアウトプットを最大限に引き上げるコツなのではないかと考えています。

 誤解を恐れずに打ち明けると、実はカイゼン活動の本質もここにあるのではないかと個人的には思っています。部品を手で取りやすい場所に置いたり、探したい部品がすぐに見つかるように仕掛かり品を管理したりと、カイゼンの手法はあまたあります。でも、それらは飽くまでツールに過ぎません。活動の本当の狙いは、日々の仕事を面白くすること。自分のカイゼン案が職場に受け入れられ、それが会社を良くしていると感じられる喜びを、現場の人たちに味わってもらうことだと思うのです。この本質をきちんと理解しているかどうかが、カイゼン活動の成否を分けるのだと私は解釈しています。

 では、成功企業はどうやって、働く人のヤル気のツボを押しているのでしょうか。これもまた定性的な見方で恐縮なのですが、成功企業の例を総合的に見ると、上司と部下、あるいはカイゼンリーダーと現場スタッフの関係性が深く関わっているように思います。例えば、ある中小規模の食品工場では、社長が意識改革をしたことが社員たちの心の琴線に触れ、赤字の会社を見事に利益率10%の優良企業に生まれ変わらせました。意識改革の経緯については、長い「物語」がありますので別の機会にしますが、社員たちのスイッチを押したきっかけになったのは、社長のある行動でした。皆が工場にやってくる前に、自ら汗だくになって、廊下の掃除とタイルの張り替え、工場の壁のペンキ塗りなどをし始めたのです。

 この会社はカイゼン活動を初めて5年が経過していますが、いまだに現場の意識は高いまま維持されています。その理由として社長は、「スポットライト効果ではないか」とおっしゃっていました。スポットライトとは、現場のスタッフに活躍の場を与え、活躍できたときには褒めたたえることを示します。活躍の場は、小さなものでかまいません。社内の発表会でカイゼン案を発表するだとか、お客様が来たときに職場を案内してもらうとか、何でもいいのです。大切なのは、できたら褒めること。そして、機会を特定の人だけではなく全員に平等に与えるということだといいます。この会社では、社員にもパートにも派遣社員にも、同じように発表や研修の機会を与えているのだそうです。