昨日、富士フイルムと静岡県立静岡がんセンターが共同記者会見を実施しました。医師の画像診断をサポートする「類似症例検索システム」の開発に成功したという会見です(Tech-On!関連記事1)。CT画像の読影を行う際、医師が画像上の病巣をクリックすると、データベースから類似した特徴を持つ症例を瞬時に探しだし、似ている順に表示するといったシステムです。富士フイルムの人工知能(AI)技術と、静岡がんセンターが持つ1000例に及ぶ豊富な症例データベースを組み合わせて開発したとのこと。2012年秋に発売予定といいます。

 筆者はこの会見において、静岡がんセンター 総長の山口建氏が語った言葉が印象に残りました。「医療機器(システム)を開発している開発者は、その機器の操作方法を実はよく知らない」――。

 例えば、今回発表したシステムは、富士フイルムの医用画像情報システム「SYNAPSE(シナプス)」上で使用します。そのため、今回の共同開発に当たってはSYNAPSEの開発者も参加したといいますが、「当初、(SYNAPSEの)操作に手間取っていた」(山口氏)とのこと。

 この山口氏の発言は、もちろん開発者を非難する意図では決してありません。現状の医療機器開発における課題を指摘するためのコメントです。ご存じの通り、医師ではない一般の人が、医療現場で患者に対して医療機器を操作することは禁じられています。そのため、実際の現場でどのように機器が操作されているのか、開発者は当然知り得ないというわけです。「自動車であれば、開発者が実際に道路でその車を運転できる。携帯電話機であれば、開発者は実際にそれを使って通話できる。しかし、医療機器の場合は、そうはいかない」(山口氏)。

 筆者はこの話を聞いて、「なるほど、確かに」と思うと同時に、「医療機器には、まだまだ多くの可能性がありそうだ」とも感じました。もし、現場を十分には知り得ない現状で多くの医療機器開発が進んでいるとするなら、その理解を深める環境を整備することで、さまざまなイノベーションが生まれる可能性があると考えられるからです。

 実際、そのような問題意識を持つ山口氏は、今回のシステムの開発に当たっては、「開発者の医療現場体験」(同氏)を重視したといいます。例えば、「10人ほどの開発者に、2週間ほど実際に医療現場に入ってもらった」(同氏)とするなど、現場で何が起きているのかということを徹底して共有したことが、「世界初」とうたう画期的なシステムの開発に結び付いた背景の一つだと強調します。

 このような山口氏の話を聞きつつ、2012年2月に取材した「メディカルクリエーションふくしま2011」におけるパネル討論を思い出しました(Tech-On!関連記事2)。討論に登壇した防衛医科大学校 副校長の菊地眞氏は、「例えばオープンキャンパスのように、病院内のさまざまな業務を多くの企業に見てもらうことが必要ではないか。その中で、国内企業が持つ技術を生かせる部分を見つけることができるかもしれない」と発言していました。実現には多くの障壁があるかもしれませんが、同氏が指摘する“オープンホスピタル”とも言うべき仕組みは、今後のイノベーションを生みだす一つの方策なのかもしれません。