前回から続く

シャープにとって、中長期的には吉にも凶にもなり得る

 シャープにとって台湾の鴻海精密工業(Hon Hai Precision、以下「Hon Hai」)グループとの提携は、その内容や方向性によって、中長期的には吉にも凶にもなり得ると当社は見ている。これまでに述べたように、今回の資本提携案に関しては、シャープの財務にとっては非常に有利な内容だと考える。(1)減損リスクが高まっていた第10世代工場の生産・販売を担当するシャープディスプレイプロダクト(SDP)株のうち46.5%を「簿価」でHon Hai グループのCEOであるTerry Gou(郭台銘)氏に買い取ってもらうこと、(2)Hon Haiグループへの第三者割当増資による自己資本増強、併せて合計1300億円ものキャッシュが手に入る意義は、財務的に厳しい局面を迎えていたシャープにとって大きい。

 また、2013年3月期の下期以降、第10世代工場の稼働率上昇による大型パネル事業の収益改善が期待される。液晶事業に関しては、シャープが抱える多くの課題解決に一歩前進したと見てよいだろう。また、将来は、中小型液晶、太陽電池、LEDなどの部品事業、液晶テレビ、白物家電、情報機器などほぼ全分野にわたって、Hon Haiグループとの協業の余地がある。従って、シャープが将来、高収益を実現するという展開を想定することも可能である。

利害が一致する分野、衝突する分野

 カギは、(1)シャープとHon Haiグループは同じ「製造業」であり、重複部分が少なくないこと、(2)シャープは競争力を「オンリーワン」と称する差異化技術に依存していること、そしてHon Haiグループは特に電子部品関連においてその「差異化技術」を必要としていること、である。

 極論すれば、シャープが少なくともAV・通信機器分野と液晶パネル分野において、将来的に全生産拠点を閉鎖し、従業員規模を極限まで縮小し「ファブレス型設計・研究開発企業」になる覚悟が経営陣にあり、Hon Haiグループが必要とする新技術を継続的に輩出できるのであれば、Hon Haiグループとの提携は、深めれば深めるほどシャープにとって全面的にポジティブになる。シャープが技術を提供し、Hon Haiグループがパネルから最終製品までを生産し、シャープを含む各アプリケーション(最終製品)の主要ブランド会社に供給する。Hon Haiグループはシャープの技術を顧客に対する差異化要因として市場シェアを拡大させることにより、シャープとHon Haiグループの両社が収益を拡大できるというシナリオである。

 しかし、現実問題として、国内にも多数の生産拠点を抱えるシャープが「ファブレス化」することは容易ではないだろう。新社長の奥田隆司氏には、シャープとして、どの分野の研究開発をどのように強化するのか、逆にどの分野の製造についてはHon Haiグループへの依存を進めていくのか、その場合に必要な費用や収益構造の変化見通しはどうなるのか、をできる限り明確に示すことが期待される。