中小型液晶関連技術の帰趨、協業方法が大きなポイントに

 当社が注目しているのはIGZO(In-Ga-Zn-O)、CGシリコン(LTPS:low temperature poly-siliconの一種)、IPS、インセル型タッチ・パネル関連など、中小型液晶で応用されている技術である。当該分野はシャープなど日本勢が韓国・台湾勢を技術力で凌駕(りょうが)していること、「iPhone」や「iPad」に代表されるスマートフォンやタブレット端末の分野ではこれらの技術が現在も今後も大きな差異化要因になると見られること、が注目の理由である。

 Hon Haiグループは出資比率12%の台湾Chimei Innoux(CMI)社と、中国Century Display (深超光電:中国・深センに本拠を置く協力会社)を擁する。両社とも米Apple社への浸透を図っているが、必ずしも順調とは言い難い状況である。CMI社は「Fab3」(第5世代)、「Fab5」(第5世代)、旧Innolux社の「Fab1」(第5世代)の3工場では中小型IPS液晶パネルを、旧TPO Displays社の「Fab1」(第3.5世代)では中小型LTPS TFT液晶パネルをそれぞれ生産しているが、日本勢との技術格差はまだ大きい。

 Hon Haiグループとしては、中小型パネル生産をCMI社からCentury Display社に拡張しつつあり、2011年12月6日にはCentury Display社の深センの第5世代工場において、「LTPS TFT駆動IPS液晶パネル生産ライン」の開所式を行っている。深センは、Hon HaiグループがiPhoneやiPadを生産している主要拠点である。今後はパネルから完成品までの一貫生産が可能な体制を目指している。また、Hon Haiグループは同じくiPadの組立ラインがある成都においても、協業先が第6世代のLTPS TFTパネル工場の建設計画を持つほか、日本経済新聞(2011年7月1日付)にも掲載されたように、ブラジルにおいても第6/第8世代工場の建設や、タブレット端末のパネルからセットまでの一貫生産を行う意向が示されている。

 これらからは、iPhoneやiPadの組立では高いシェアを誇るHon Haiグループが、パネル生産も韓国・日本勢から自社グループへ取りこみ、Apple社向けビジネスの付加価値向上を図る、という構図が見える。中国一極集中となっている生産拠点を分散し、ブラジルへいち早く進出することで現地政府からより優位な条件を獲得しつつ、Apple社におけるHon Haiグループのシェア維持・拡大を図ることが可能となる。

 しかし、Hon Haiグループに欠けるのが中小型パネルの先端技術とIP(知的財産)である。この点について、シャープの協力が求められる可能性は高い。技術保持という意味では、シャープが過半を握るようなスキームが必要だが、資金面を考慮してマイノリティ出資という形になることも想定される。その場合は、シャープの「オンリーワン」技術が、シャープの管轄範囲外の企業に移植されることになる。当社では、マイノリティ出資による技術移転自体がシャープに悪影響をもたらすと考えているわけではない。しかし、シャープ側で常に「1世代先」の技術を開発し、国内自社工場では新技術に基づく別のパネルを生産し続けられるのか、その青写真が描けているのか、ここがカギとなる。

中小型・大型向け有機EL開発能力に課題

 一つ課題を挙げるとすれば、シャープはアクティブ・マトリクス型有機ELパネルに関しては、研究開発ベースにとどまっており、量産経験を持たないことである。このほか、シャープが所有する技術で、Hon Haiグループから見て魅力的と思われるものは少なくない。例えば、結晶型・薄膜型太陽電池、LED、CCD/CMOSセンサやカメラ・モジュール、半導体レーザやその他光学部品などである。また、シャープのテレビや携帯電話機については、最初は組立(EMS委託)から、最終的には設計(ODM委託)も含め、Hon Haiグループ側に委託されていく可能性がある。この場合も、シャープは自社の生産や設計の拠点をどう処遇するか、決断を迫られることになる。Hon Haiグループと協業する分野としない分野を、明確かつ戦略的に線引きしていく必要がある。