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今回の提携に限れば、シャープのメリットは大きい

 まず、今回の提携の意義を考えてみたい。台湾の鴻海精密工業(Hon Hai Precision、以下「Hon Hai」)グループの出資比率は、シャープディスプレイプロダクト(以下、「SDP」)に対して46.5%、シャープに対しては9.96%となる予定である。いずれも役員派遣の予定はない。

 SDPは第10世代工場を運営する生産子会社であり、設計や開発などの機能を持たず、IP(知的財産)なども所有しない。シャープにとっては、「資金だけ入れてもらい、技術は流出しない」という枠組みとなっている。シャープには非常に有利な条件と言える。また、Hon Haiグループは顧客からのパネルの受注と生産はできるが、パネルの開発と設計については、台湾Chimei Innolux(CMI)社などグループ企業を利用しない限り、シャープに委託することになる。この観点でも、シャープのメリットは大きい。

 第10世代工場の生産能力に関しては、シャープ分(全体の50%)は自社の液晶テレビ「AQUOS」向けが中心になり、Hon Haiグループ分(同50%)はODM/EMS顧客向けとなる。そして、Hon Haiグループ分の生産能力については、EMS/ODM顧客がどこまで採用するのかがカギとなる。

 テレビ向けでは、Hon Haiグループの大口顧客はソニーとシャープしかいないため、2013年度モデル奪取に向けて新規顧客開拓が必須となる。それ以前に米国のブラック・フライデー向けのプロモーション機種の獲得や、開発から発売までの期間が短い中国ブランドへの売り込みも考えられるだろう。一方、モニター向けでは米Hewlett-Packard (HP)社をはじめ大手ブランド会社に食い込んでいる。CMI社では実績がないハイエンド高精細パネルを、第10世代工場で生産する可能性もあるだろう。

Hon HaiグループのApple囲い込み戦略と、「Appleモニター」「Apple TV」

 また、各種マスメディアで報道されているように、シャープ(iPhone/iPod用パネルを供給)とHon Haiグループ(iPhone/iPadといった最終製品組立を受託、一部部品を供給)は共に、米Apple社向けに大規模な取引がある。すべての最終製品で超高精細パネルを指向しているApple社製品における、パネル供給シェア拡大、供給機種の拡大を図ることは、両社にとって合理性が高い。60型/70型の超大型サイズ(60型で300万枚/年、70型で20万枚/年)は当然だが、むしろ20型台の中型サイズの超高精細パネルに関しては、シャープの設計開発能力と第10世代工場の生産能力の有効性がより一層高くなる。

 例えば20型であれば72面取りであり、3000万枚/年の供給が可能である。これによりシャープ/Hon Hai連合はモニターやテレビの領域でも、Apple社製品向けの主要サプライヤーに躍り出る可能性があろう。これらはサイズにかかわらず、チューナーがついていれば「Apple TV」となるわけであるが、それはシャープにとってはあまり重要ではない。シャープにとっては、どのような最終製品向け(ブランド、アプリケーション)で、どのようなサイズ、スペック(仕様)、方式のパネルで生産能力を埋められるのかが重要なのである。

 今回の提携内容を見ると、シャープにとってのメリットが大きいが、Hon Haiグループの目的は「技術へのアクセス」である。Hon Hai側から見れば、今回の提携は「はじめの一歩」である可能性が高い。今後の両社の協業動向をどう読むのかが重要になってくる。

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