「自分で会社登記を試したのですが、何だか複雑で分からなくなってしまって…」

 中国進出を目指していた日本の中堅大手企業の中国担当の役員の弁である。彼は、日本企業の中国担当役員としてもう15年も中国大陸で仕事をしてきた、いわば中国通。そんな彼でも、中国で会社登記をする際の複雑さに困難を極めるという。

「中国人名義を借りて内資企業(中国資本の企業)として登記してはどうでしょう」

 中国人パートナーに相談すると、よく勧められるやり方だ。中国人パートナーは、自分で中国企業を登記したことはあっても、外国企業の登記に関してはほとんどの場合、経験がない。だから、よく知っているやり方がそのまま利用できる、内資企業の登記を勧めるわけである。結局は、そのアドバイスに従い、「では内資企業でお願いします」と中国人パートナーに全てを委ねてしまったのである。

 スムーズに企業設立が進み、ビジネスも順調に進んでいった。これまで香港を経由していたビジネスを全てこの中国内資企業に移管したので、当初から売り上げも利益もかなりあった。この内資企業は順調に利益を上げ、成長していったのである。

 1年目は、出てきた利益は内部留保して、さらなる現地法人(内資企業)の成長に利益を充てることにした。そして、そのまま2年が経ち、日本と中国との連携強化から、本来の日中の連結の形にしようという話になった。その瞬間から、問題があらわになり始めたのである。

「当初は内資ということでスタートしましたが、そろそろ中国での体制も整ったので、内資企業を外資法人として登記し直して再スタートする準備を始めたいと思います」

と日本側役員。すると中国側パートナーは、こんなことを言い始めた。

「当初も何も、内資企業は、あくまで私個人の名前で私が登記して作った会社ですから、外資企業にする訳にはいきません」と。

驚いた日本側役員も必死で食い下がる。

「では、たまった会社の利益を日本側に返してください、これまで、多額の資金を投入し、面倒をみてきましたから」と。

ところが中国人パートナーはまったくたじろがず、こう言い放ったのである。

「面倒を見ていただいてきたことには感謝しますが、それはそれ、法律上は私の会社であることは間違いありませんから」

 結局、その会社は中国人パートナーのものになってしまった。現地の法律事務所で会社を取り返すべく対策も打ったが、日本側の主張が通る余地はなかった。最初から外資企業としていても、配当というかたちで利益分を国外に持ち出すことは可能であっても、会社に資産となったお金を資本の移動ということで国外に持ち出すことは極めて困難なのだ。