前回(第5回)で述べた各国の“国づくり戦略”に、例外なく盛り込まれているキーワードの一つが“イノベーション”である。第3回にて“ものづくり”の定義を「技術イノベーションを主体とする商品化のしくみ」、“もの・ことづくり”の定義を「ビジネスイノベーションを伴ったビジネスモデル作りと、それに沿って技術イノベーションを伴う商品作りを融合させて、その市場を立ち上げ、顧客を獲得するまでの一連のしくみ」としたが、今回はもう少し詳細に“イノベーション”を定義し、“もの・ことづくり”のパターンとの関係付けをしておきたい。


シュムペーターによる“イノベーション”

 日本では、ともすると「技術革新」と偏って解釈されがちな“イノベーション”であるが、原点を振り返っておくことは意味があると思う。
 非連続的・動態的な経済発展は“新結合”によって起こされる、と説くシュムペーター(Joseph Alois Schumpeter)の著書「経済発展の理論」*の日本語訳から、できるだけ“イノベーション”の定義を忠実に切り出したい(同書では“新結合”という言葉で定義されているが、後の改訂版で彼自身が“イノベーション”と置き換えている)。

* Joseph A. Schumpeter, "THEORIE DER WIRTSCHAFTLICHEN ENTWICKLUNG", 2. Aufl., 1926.〔邦訳:塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一「シュムペーター 経済発展の理論」岩波書店、1977年〕

 シュムペーターによれば「生産ということは、我々の利用し得るいろいろな物や力を結合すること」であるが、「古い結合から漸次に小さな歩みを通じて連続的な適応によって新結合に到達することは、われわれの意味する経済発展ではない」。その場合と違って「“新結合”が非連続的にのみ現われ、経済発展に特有な現象が成立する。我々の意味する経済発展の形態と内容は“新結合”の遂行という定義によって与えられる。この概念は次の5つの場合を含んでいる」とあって、次の記述となる。

(1)新しい生産物(筆者注:邦訳本ではより広く、消費財、生産手段、材料なども表す「財貨」という言葉を当てている)、あるいは新しい品質の生産物の生産   
(2)新しい生産方法の導入。また商品の商業的扱いに関する新しい方法をも含む        
(3)新しい販路の開拓(既知のものであるかどうかは問わない)    
(4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。供給源が既存のものか、初めてつくり出されなければならないものかは問わない       
(5)新しい組織の実現(独占的地位の形成、あるいは独占の打破)

 これを今風に解釈すると、下記のように定義可能かと思う。“イノベーション”とは、生産物と生産方法を組み合わせた革新的な“新結合”の遂行であり、下記の(1)から(5)の自身/相互の“新結合”の遂行を含む。