台湾活用型による中国でのビジネス展開に注目が集まっている。マスコミ各誌でも大きく取り上げられるようになった。私が所属するTCA東京事務所で行っている中国ビジネスの「個別相談」にも問い合わせが増えている。これまでは月平均3~4件ほどの相談件数が、昨年の秋からは週に3~4件と急増した。年明け後もこうした傾向は変わらず、引き続き関心の高さがうかがえる。「個別相談」だけでなく、公開セミナーや勉強会などでも「台湾活用型」が取り上げられる機会が増え、開催後に多くの質問や相談が寄せられるようになった。

 今回から3回シリーズで「台湾活用型中国ビジネス」について考えてみたい。最初に、台湾活用型における中国でのビジネス展開について具体的にどのような可能性が考えられるかを整理して分類してみたい。図の「台湾活用型による中国でのビジネス展開」をご覧いただきたい。これはTCA東京事務所が行ってきた現地視察でのヒアリング事例やTCA東京事務所に寄せられる相談内容から台湾活用型中国ビジネスの可能性について、マンダラチャートを使って八つの領域に整理、分類したものである。台湾活用型がどのようなケースで有効かをここで改めて考えてみていただきたい。

台湾活用型による中国でのビジネス展開
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 一般的に台湾企業とのビジネスは、日本側が製品調達先として台湾を活用するケースが多い。商社やショップがパソコンやその周辺機器及びアクセサリーなどの台湾製品を買い付けるケースに代表されるものだが、日本のパソコンメーカーやショップブランドが台湾OEMを活用するケース、基板や組み込み製品のパーツやモジュールなどを生産委託するケースなども含めて、図中の(1)に分類される「OEM/ODM活用型」と言えるだろう。

 実は、こうした「台湾活用型」の動きは決して新しいものではない。1990年代後半から量産技術に特化して力をつけてきた台湾は、生産拠点を中国に移すことでよりコストダウンの取り組みを進めてきた。「世界の工場」として中国を活用しながら、世界中にパソコンやその周辺機器、アクセサリー、関連パーツや製品モジュールなどをリーズナブルな価格で大量に供給し続けてきたわけである。さらにはOEM(Original Equipment Manufacture/生産委託)から設計まで手がけるODM(Original Design Manufacture)へとビジネスの形を進化させてきた。こうしたOEM/ODMの形態も広い意味で「台湾活用型」と言えるだろう。他にも、台湾企業への技術指導や技術移転、または技術アライアンスによる製品の共同開発、生産拠点または開発拠点としての台湾の活用など、(2)の「製品の共同開発/資金調達」といった活用方法もある。

 日本のパソコンメーカーのパソコンはその大多数が台湾OEMであり、この動きはウィンドウズ95ブームに沸いた1990年代後半にまで遡ることができる。同時にパソコンのキーコンポーネンツや周辺機器など、さらに組み込みシステムや通信設備の分野まで台湾OEMが一気に広がった。さらに、時代をもっと遡れば日本の高度成長期に台湾に進出した製造業が、家電や自動車部品などの分野で生産拠点として台湾を有効活用してきたケースも広い意味では「台湾活用型」と言えるだろう。日台アライアンスの歴史は古い。

 このように台湾企業はこれまでも日本企業にとってアジアでのビジネス展開における重要なパートナーであった。しかし、ここへきて注目を集めているのは中国ビジネスでより積極的に台湾を活用とする動きである。中国市場を視野に入れた取り組みでより積極的に台湾を活用しようという取り組みが注目を集めている。特に、こうした動きが大企業だけではなく、日本の中小企業の間にも広まっていることも特徴のひとつだろう。

 図の(3)「マーケティングノウハウを活用」と(4)「中国でのネットワーク活用」をご覧いただきたい。これは中国市場におけるニーズ分析や市場動向を把握するために、台湾企業を有効に活用しようという取り組みである。台湾を中華圏でのテストマーケティング場と位置付け、台湾市場での情報収集を依託したり、台湾企業にニーズ゛分析と市場予測を依託したり、台湾でテスト販売やサンプル評価をすることで中国市場におけるビジネスの可能性診断を行う。

 最終的には、中国国内の市場がメインターゲットである。台湾企業が中国国内に持っている販売チャネルやネットワークをフルに活用してビジネスを進めていくことが狙いである。特に筆者は中国国内の市場を台湾企業と一緒に共同ヒアリングをしてみることをお勧めしたい。台湾人の眼で見た中国の市場分析や競業者のリストアップなどもぜひいっしょの取り組みとして実施してみていただきたい。

 図の(5)「展示会を有効活用」は中国や台湾で開催される展示会に出展する際に、台湾企業を有効に活用する方法である。現地でのオペレーションを任せたり、出展の告知や出展製品の事前PRなど日本企業が不得手とする部分で台湾企業を有効に活用したりなど、実際にこのように取り組んでいる事例も少なくない。

 図ではそのほかに、(6)「拠点支援/法人設立準備」、(7)「人材育成/異文化理解」、(8)「多様な選択肢」についてまとめてみた。詳細は次回以降に順次紹介していきたい。

 このようにひと口に「台湾活用型中国ビジネス」と言ってもさまざまな取り組みがある。「台湾活用型」のどの部分に期待するか、自分の会社が目指すポイントをここで再度確認してみていただきたい。TCA東京事務所に相談に来る方々の多くが「台湾企業は親日的だから」、「台湾人は中国で言葉(中国語)が通じるから」、「風俗習慣や商習慣など共通の価値観を持っているから」という理由を挙げる。しかし、「親日性」「言葉」「商習慣」の三つのポイントのみを期待したケースで、失敗した事例も少なくない。図をご覧いただき、もう一歩踏み込んで台湾企業とのアライアンスの組み方を考えてみていただきたい。