一方、ファブレス設計企業と製造だけに特化するファウンドリー企業という水平分業化が進んだ分野もあります。工場を持たずに設計と販売に特化するファブレス設計企業としては、携帯電話機やスマートフォン向けのチップセットを提供するQualcommやMediaTek、高性能画像処理プロセサのNVIDIA、製造後に設計者が構成を変えることができるFPGAを提供するXilinxやAlteraなどがあります。

 これらのファブレス設計企業は顧客である携帯電話機メーカーなどが製品を採用しやすいように、単なるLSIというハードウエアを提供するだけでなく、LSIを使いこなすための周辺のチップやソフトウエアの提供が必要になります。顧客が製品を使いこなせるようなソリューションの提供、サービスが不可欠になるのです。

 LSIの製造に特化するファウンドリーもサービス業です。顧客から発注された製品を、低コストかつ短納期で製造することが重要です。それに加えて、顧客が多様な機能を集積できるように、インタフェース回路や電源回路など様々な回路IPを提供する必要があります。垂直統合型の企業と同様に、ファウンドリーも最先端の微細加工技術に巨額な投資が必要なため寡占化が進み、TSMC、UMC、GLOBALFOUNDRIESなどの企業に絞られてきました。

 デジタル・カメラやスマートフォンのカメラの眼であるイメージ・センサは高機能化により差異化できる市場です。iPhone 4Sに採用されているソニーの裏面照射型CMOSイメージ・センサは、信号を処理するCMOS回路の裏面にフォトダイオードを設けることで効率よく光を集め、高感度と低ノイズを両立しました。

 ただ、裏面照射型のCMOSイメージ・センサはSamsungなども開発に成功しています。イメージ・センサ業界は今後、多機能化だけではなく、メモリのようにコスト、価格が重視される市場になる可能性があります。

 日本のルネサス エレクトロニクスが強い車載向けのマイコン(マイクロコントローラユニット)。車の電子化に伴い、1台の車に数十個から高級車では100個を超えるマイコンが搭載されるようになってきています。電気自動車ではさらに多くのマイコンが使われることになるでしょう。

 車という人の命にかかわる製品であるため、不良を限りなくゼロに近づけること、エンジンルームの高温下でも正常に動作することなど、高い信頼性が求められます。また、携帯機器に比べればはるかに長い、10年もの製品の供給が求められます。高い信頼性を実現するため、最先端から1~2世代遅れた安定したプロセス技術で製造されることが一般的です。長期にわたるビジネスになることから、会社としての信用も重要です。

 このように半導体産業だけを考えても勝つためのビジネスモデルは実に多様です。また、以上の例のように、日本の半導体産業でも強いセクター、企業はあります。

 強いと思っていた日本のエレクトロニクス産業が巨額の赤字を出していることに、多くの方が戸惑っていると思います。ただ、「日本のエレクトロニクスはもうダメだ」と悲観し過ぎる必要はありません。

 まずは落ち着いて、自らの強みを生かせる独自のビジネスモデルを考える。処方箋は各社バラバラになると思いますが、それこそが日本のエレクトロニクスの復活につながるのではないでしょうか。