子供などが飲みやすい飲み薬の医薬品開発で新市場を開拓中

 池崎社長は「最近、力を入れている業界分野は医薬品分野だ」という。現在でも、「国内の医薬品企業25社に、海外企業5社に販売済みだ」。また、医薬品の研究開発を担っている公的研究機関や大学などにも販売済みと続ける。

 医薬品に力点を置く理由の一つが「飲みやすい薬を実現するため」と語る。“小児”と呼ばれる子供向けや高年齢者向けの飲み薬は苦味などのために、飲みにくい薬がある。こうした飲みにくい薬は、患者が飲んだふりをして実際には飲まないケースが大きな問題になってきた。

 このため、子供などが飲みやすい味の飲み薬が開発されると、治る患者が増えると予想されている。例えば、フランスでは飲み薬などの新薬を承認する際に「小児がきちんと飲めることの証明を求めるようになっている」という。また、日本の医薬品メーカーも「効用は同等で、飲みやすい薬を追究し始めている」と、最近の医薬品市場の動向を説明する。最近は、アレルギー性鼻炎薬の課題だった「強い苦味と刺激性を改善した飲み薬の開発で、味認識装置は効力を発揮したケースがある」と説明する。医薬品の研究開発向けという、新分野向けで、日本初の新技術である味覚センサーが国際市場に広がる可能性が高まってきたといえる。

 味覚センサーを利用する味認識装置は現在、「海外市場に約100台を販売する計画で、現在約20台を販売済み」という。欧米のメガファーマと呼ばれる大手医薬品メーカーやインドなどのジェネリック薬品メーカーなどが味認識装置を駆使する時代が近いようである。

 新規事業の担当者だった池崎社長は、結果的にスピンアウトしてベンチャー企業を率いることになった。ベンチャー企業の創業時点で、技術開発がある段階を越していて、製品を販売していた点は、ベンチャー企業の立ち上げ期としては幸運な方だろう。しかし、大企業の社員として過ごす方が、人生のリスクは低かったともいえる。この点で、人生のリスクを取って、自分が信頼する新規技術を用いた味認識装置の事業を成功させる生き方を選んだ。ベンチャー企業の開発者と経営者という二つの立場で、昼夜を問わず、事業化を進める仕事に携わることができたことに、池崎社長はかなり満足しているようだ。

 大手企業では、職務・職制が細分化され、研究開発担当者が事業開発の最後まで担当するケースは少ない。味認識装置の第4号機までのユーザーニーズ対応を継続して事業化を担当できたことが、同社の事業の成長を支えたといえる。鶏口牛後(けいこうぎゅうご)を地で行く池崎社長は「仕事が楽しくてしかたがない」という。日本の新規事業起こしのお手本といえる。