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インテリジェントセンサーテクノロジーの池崎秀和代表取締役社長

 インテリジェントセンサーテクノロジー(神奈川県厚木市、略称はInsent)は、九州大学と共同で開発した味覚センサーを組み込んだ味認識装置を製品化したベンチャー企業として知られている存在だ。

 同社は食品・食材開発の実務者には、味認識装置を製品化した当初からある程度知られていた。しかし、ベンチャー企業の同社が一般の人にまで知られるようになったきっかけは、共同研究相手である九州大大学院の都甲潔教授が2000年ごろからテレビ番組に出演し、研究開発成果である味覚センサーによる味の数値化の効用を解説し始めたことだった。例えば、2006年に日本テレビのバラエティー番組「世界一受けたい授業」などのさまざまな番組に都甲教授は出演し、味覚センサーによる食品開発時の“味のものさし”の効力を伝えたことが、同社の知名度を高めた。

 味覚センサーによる各食品の味が持つうまみ(先味と後味の2種類)や酸味、塩味、苦味の5種類による味の評価シートである“食譜”によって、その食品の味を視覚化する解析手法は、新しい食品・食材を開発する際の新製品の性格付けなどに効果を発揮した。

 インテリジェントセンサーテクノロジーが創業された経緯は、電子計測機メーカーのアンリツが新規事業起こしを始めたことだった。九州大大学院の都甲教授との共同開発を通して、味覚センターの実用化にメドをつけた。現在、同社の代表取締役社長を務める池崎秀和さんは当時、アンリツの研究所センシング技術プロジェクトチームの一員として、共同開発の担当者になった。

 味覚センサーを組み込んだ味認識装置は1993年に製品化され、事業化は無事に進み始めた。ところが、平成14年(2002年)早々に、アンリツは事業の選択と集中を実施し、味認識装置事業は非コア事業と判断した。そこで、同事業の担当者だった池崎社長はすぐに、インテリジェントセンサーテクノロジーを創業し、アンリツから事業移管を受け、ベンチャー企業としての道を歩み始めた。

 結果的に、大企業からスピンアウトしてベンチャー企業となったインテリジェントセンサーテクノロジーは、味覚センサーという新技術を中核とする新製品展開を進めた。ベンチャー企業の社長としての新規事業を展開する際の事業戦略のポイントを聞いた。

  平成元年(1989年)から、アンリツは九州大と味覚センサー共同開発を始めた。その数年前から、アンリツの研究所センシング技術プロジェクトチームの若手社員だった池崎社長は新規事業の種となる新規技術を求めて、九州大に通い始めた。

 当時の都甲教授は新進気鋭の助手として、味覚センサーの研究開発に明け暮れていた。味覚センサーは脂質膜の電位の変化を利用する、エレクトロニクスとバイオテクノロジーの融合技術だったために、エレクトロニクスが専門の池崎社長がアンリツ側の共同研究の担当者になった。

 当時助手だった都甲教授と意気投合した池崎社長は、味覚センサーの実用化による新規事業起こしを目指す共同研究に励んだ。毎月1回は互いの研究成果を議論するために、厚木市から、福岡市にある九州大に通い、「測定精度などを議論した」という。

 共同研究を始めて4年後の1993年に、味覚センサーを組み込んだ味認識装置の第1号機の「SA401」を製品化した。その後、味認識装置の新製品「SA402」を市場に投入し、製品投入は順調に進み始めた。