今回紹介する書籍
題名:销售女神 董明珠
作者:肖文鍵
出版社:中国致公出版社
発行日:2011年1月

 今回からの3回も、前シリーズと同じく中国の家電メーカーを扱った『销售女神 董明珠』という作品を紹介する。

 前シリーズは携帯電話、薄型テレビ等を中心に製造する「TCL」という企業を取り上げたが、今シリーズの「材料」は空調機器一筋で発展を続け、ついにはエアコン販売数世界一となった「格力」の女性社長・董明珠を扱ったものだ。本稿ではこの本について

  1. 格力が世界一のエアコンメーカーになれた理由
  2. 一販売員から社長にまで登りつめた董明珠の成功の秘密

 という二つのポイントに絞って読み解いていきたい。

 まずは、「格力」という会社について簡単に紹介しておこう。「格力」は中国語の発音で「グーリー」、会社のロゴはGREEだが、日本のゲーム企業とは関係がない。正式名称は「珠海格力股份有限公司」で1991年に前身である「冠雄塑胶有限公司」「珠海海利空調器廠」が統合して成立した。その後1994年には中国の「十大国産名牌空調」に選ばれている。

 その後も国内外を市場にして成長をつづけ、同社のホームページによれば2011年の営業収入は835.95億人民元、前年比37.48%増、純利益52.45億人民元、前年比22.67%増、9年連続アメリカ『フォーチュン』誌にて「中国上場企業トップ100」に選ばれており、家庭用空調年産5000万台、商業用空調年産550万台、2005年から現在まで7年連続販売数世界一とある。ここからも分かる通り、押しも押されもせぬ空調機器における世界のトップメーカーである。

 ではなぜ格力が世界のトップメーカーたり得たか。本書から分かるポイントは3点。

① 格力模式(模式=モデル)の確立
② 絶対に値下げしないこと
③ 品質第一

 ①の「格力模式」とはなにか。簡単にいえば代理店とメーカーが共同出資して販売会社を作る、というやり方で、1997年に代理店と格力が共同で「湖北格力電器销售公司」を設立したのが始まりである。この会社の設立により格力には湖北地方の販売ネットワークとサービスネットワークを統一できるというメリットがあり、代理店側には利益が保証されるという利益があった。その結果として、湖北省では売り上げが45%伸びたという。この成功を受けて、格力は各地でこの方式を繰り広げた。その結果1997年には42億人民元だった売り上げが、2000年には70億人民元にまで跳ね上がった。

 このように格力に多大な利益をもたらした「格力模式」の強みはその合理的なシステムにあるという。「格力模式」ではまず省レベルの販売会社を作り、その下に市レベルの販売会社を作る。そしてその下の小売商に関しては、製品の確保が販売会社により保証されるが、利益率は低くなっている。全国的な宣伝、キャンペーン等に関しては格力側が責任を持つが、区域ごとの広報、アフターサービス等に関しては各販売会社に任せる。このような代理店との独特な関係を作り上げ格力は売り上げを伸ばしてきた。事実この方式は「全く新しいマーケティングモデル」と言われ高く評価されている。

 しかし、格力の販売力の秘密はこれだけではない。「格力模式」をその販売力の大きな柱とするなら、それを支える支柱があと2つある。一つは「かけ売りはしない」こと。その結果、代金の取りはぐれはゼロだという。しかし、これは代理店に大きな負担を強いることになる。その分は代理店に対し閑散期に利益を還元する等の方法でケアをしている。そしてもう一つが本書の主人公でもある董明珠と、格力が国有企業であった頃からずっと牽引役であり続ける会長の朱江洪に対する関係者の信頼の厚さである。

 ②「絶対に値下げをしない」、③「品質第一」、とともにこの方針を貫くにあたり董明珠社長の貢献は大きい。次回はその董明珠社長について紹介したい。一販売員から社長まで登りつめた董明珠の生き方と強烈な個性は社会人として参考になるところが多々あるであろう。