長い時間を掛けて事業が弱っていくうちに、エンジニアが疲弊していくことを心配しています。今必要なことは、車載向けのマイコンやイメージ・センサなど、強い分野をさらに一層、強化することです。場合によっては、こういった事業を独立させ、身軽になって生き残りを図ることも必要でしょう。

 しかし、そうすると、不採算部門はどうするのか?。経営者が雇用の問題や過去のしがらみにとらわれて事業の判断をできなかったり、強い部門に十分な投資ができない状況になっていないか。強い部門が弱ってしまう前に、時には競争力のある技術を持つエンジニアやエンジニアのグループ、部門ごと、飛び出すことも必要だと思います。

 1カ月前のコラム「ツイッター、やらなきゃ損?! ソーシャルメディアや学会を使い、自分という商品を売り込む」で、エンジニアが自らを社外に売り込み、個人として生き残りを図ることが重要だと書きました。

 エンジニアやエンジニアのチームも建築家やアーティストのように、自分の腕を頼りに、個人として生き残りを図るのです。私が思うよりもずっと早く、エンジニアにも「個の時代」が来ているのではないか、エルピーダメモリが倒産して気付かされました。

 日本のエレクトロニクスを窮地に陥れたのが、世界的な水平分業化だとすると、逆に日本を救うのも水平分業化。水平分業の世界ではベンチャー企業など資金力がない企業でも製品を開発・製造できるようになりました。

 自分の例で恐縮ですが、竹内研究室では設計の外注とファウンドリー・サービスを駆使して、最先端に近い40nmのSRAMマクロを開発し、先ごろ行われたISSCCで発表しました。資金力がない大学でさえも、水平分業化の恩恵で、世界トップレベルのLSIを開発できる時代になったのです。

 エンジニアも個の時代。大企業がさまざまなしがらみにとらわれ、自己変革が難しくなっていても、日本のエンジニアには世界トップレベルの技術を持っている方が多くいると思います。経営者が決断できなくても、日本の企業が倒れそうで倒れないのは、現場のエンジニアの皆さんの力によるところ。でも、こうして会社を支える過程で、エンジニアが疲弊しては元も子もない。

 技術力を会社の外で生かした方が良いのであれば、個人あるいはエンジニアのチームや部門がスピンオフする。残されたものはどうすればよいのか、と言われそうですが、強い事業をより強くして、産業のすそ野を広げて経済を活性化する。それしか現在の日本のエレクトロニクスには選択肢がないのではないでしょうか。