「国循弁当」をご存じでしょうか?

 国循とは、大阪府にある国立循環器病研究センターのこと。循環器を専門とする日本最先端の医療機関・医学研究機関です。つまり国循弁当とは、同機関のブランドで提供しているお弁当のことなのです。給食会社とライセンス契約を結び、2011年末からテスト販売を始めました。

 お察しの通り、このお弁当のルーツは、国立循環器病研究センターに入院する患者に向けた病院食です。循環器系の疾病は、食生活との因果関係も大きいため、いわゆる減塩食として患者に提供していたものです。減塩でありつつも、いかにおいしくするかというノウハウで作った食事を、入院患者だけでなく、広く一般にも提供していこうというわけです。

 2012年1月に東京・丸の内に開店したタニタ食堂も、同様のコンセプトと言えるでしょう。同社の社員食堂のレシピを忠実に再現した定食を提供する同店は、好評を博しているようです。

 今回、国循弁当を取り上げたのは、医療機関が「従来の医療」以外の事業に乗りだしてきた点が興味深いと感じるからです。国立循環器病研究センターは、お弁当の販売だけではなく、減塩食レシピを指導する料理教室を開くなど、「(病院に蓄積されている)知的財産を積極的に事業化していく」というスタンスを明確に打ち出しています。

 通常、医療機関の経営は診療報酬によって成り立っています。言うまでもなく、診療報酬は厚生労働省を中心とする医療保険制度の中で一律に決められたものですから、ある意味、医療機関は「計画経済」の中で動いていると言っても過言ではないわけです。

 一方、国循弁当は、もちろん診療報酬とは全く関係がありません。当然、価格設定は自由です。つまり「自由経済」の世界と言えます。ちなみに、国循弁当は700円だそうです。

 「医療機関が今後、これまでの計画経済の領域だけではなく、自由経済の領域にも入っていくことが重要」という主張は、経済産業省も最近、あちらこちらで発信しています(Tech-On!関連記事)。筆者も、その方向性には賛成です。

 例えば最近では、生体センサや通信技術を活用した健康管理システムや見守りシステムなどの提案が、産業界から相次いでいます。こうしたシステムにも医療機関が持つノウハウを融合させ、「○○病院ブランドの健康管理システム」となった方が、はるかに魅力的だと筆者は感じています。

 国循弁当にもかかわっている、国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター長 研究所副所長の妙中義之氏は、次のように言います。「その昔、線路が敷かれるとそこに街が生まれ、住宅や商業、娯楽などさまざまな産業に鉄道会社が大きく関わっていった。かつての鉄道の役割を、これからは医療機関(病院)が果たすようになる」。

 確かに、今後の超高齢化社会を考えた場合にも、医療機関を中心とした街づくりは必要になりそうです。例えば、医療機関が持っているリハビリのノウハウを生かした「○○病院ブランドの家」みたいなものがあってもよいかもしれません。

 医療機関が持つ財産と、同機関外の事業との融合。そこに、今後の新産業の種の一つがあるように感じています。