「The new iPad(新しいiPad)」――突っ込みどころ満載のように見えながら、正しすぎるので誰も正面からは突っ込めないという、ある意味完璧な名前を得て、米Apple社の次世代タブレット端末が日本時間の3月8日未明、米サンフランシスコでお披露目された。

 会場で実機を手にした人たちのレビューを読むと、高精細液晶パネル「Retinaディスプレイ」の解像度は息を飲むほどの美しさだというし、クアッドコアの新型プロセサ「A5X」搭載効果で、現行モデルのiPad 2に比べ、反応速度が格段に向上。LTEや音声入力にも対応と、現行モデルから進化を遂げたのは間違いのないところ。私事で恐縮だが、老眼のきつくなってきた筆者の眼にもハッキリと映る新iPadの美しい文字にひかれ、オンラインのApple Storeで購入ボタンを「ポチッと」してしまったことを告白する。

 ただこれらのスペックが、いずれも市場や専門家が事前に予測していた範囲に収まるものだったことから、米国では、驚きという点では今一つ、という評価がみられたようだ。

 台湾の業界筋によると、新iPadの生産は大半をEMS世界最大手の台湾Foxconn(フォックスコン=鴻海)社が、約1割を台湾Pegatron社が受注したとの観測が強い。このうちフォックスコンはiPadの生産ラインを広東省深センと四川省成都、Pegatronは上海と、いずれも中国に置いている。

 その中国でも、新iPadに対する反応は、3月16日の発売第1弾のグループから中国が漏れたこともあり、盛り上がりに欠けたものになった。

発表から数時間後の3月8日、中国のオークションサイト「淘宝(Taobao)」に「出品」されていた新iPadの数々
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 もっとも、オークションサイト「淘宝(Taobao)」では、発表当日に早くも新iPadを売る商店が多数登場した。いずれも発売第1弾の国・地域に指定された香港か米国において代理で購入し、深セン経由で中国に持ち込むというもので、Wi-Fiモデルで4000元(1元=約12.7円)の値をつけている店や、予約の手付け金として400元を徴収し、残りは納品時の人気に応じた時価で、というのもあった。いずれ劣らぬ怪しさだが、スマートフォンの「iPhone 4S」が登場した2011年10月には、本物が存在しない「iPhone 5」がネットオークションはもとより、上海の零細の携帯電話小売店で販売されていたという。「新iPad入荷しました」などという店が見当たらないだけ、今回はまだマシだともいえるし、それだけ新iPadが初動の爆発的な人気に欠けていることの証左だといえるのかもしれない。