4. 「ECFA経済効果」で、日本企業の中国市場進出を推進

 日本と台湾は、川上・川下分野における分業と経済投資分野で非常に密接な関係にある。2010年6月29日、台湾は中国と「両岸経済協力枠組協定」(Economic Cooperation Framework Agreement:ECFA)を締結した。その後、関税減免措置第1弾として、台湾から中国に販売する対象項目が約539品目に拡大。2011年1月1日に本格的に運用が開始され、2013年1月1日までに段階的に関税率が0%にまで引き下げられる。これは、日本企業による台湾へのバリューチェーン移転を図る大きな誘因になるだろう。

 例えば、情報通信産業はECFA早期収穫リストに入れられており、既に一部の日本の通信情報関連のソフトウエア企業が「台湾企業と事業提携して、共同で中国のビジネスチャンスを開拓したい」という意向を表明している。これとは別に、古河電工でも、ECFA早期収穫リスト減税品目に着目し、電気自動車用Liイオン2次電池に使われる電解銅箔の台湾生産を決定し、これを契機に中国市場進出を目指すという。このように、両岸経済協力枠組協定(ECFA)調印というメリットを通して、この先、日台企業による各分野での提携・協力が一段と進むだろう。

 このほか、日本と台湾は2011年9月22日に「亜東関係協会と財団法人交流協会における投資の自由化・促進・保護協定」を締結した。これにより、台湾と日本企業の協力関係がいっそう強まると期待されている。また、将来的には在台日本企業にも、台湾が中国との間で締結している「両岸投資保障協定」を適用し、台湾を日本企業が中国市場に進出するための前線基地にすることを目指すという。

5. IEK View:日台産業協力に対する提案

 (1)BT基板、CMPスラリー、アンダーフィルなどの重要部品・材料が日台産業バリューチェーン改革の火付け役に:
 東日本大震災後にサプライチェーン危機に陥ったBT基板、CMPスラリー、アンダーフィルなどの重要部品・材料は、この先、日台産業による相互協力を強化する分野になるだろう。そして、「市場に近い」というメリットこそ、日本産業のバリューチェーンを台湾に移転する最大の誘因となり、新たな日台協力事業に切り込むきっかけにもなる。

 (2)バックアップ基地、産業集積、ECFA経済効果で日台協力を導く:
 東日本大震災後、日本のハイテク業界では海外でのバックアップ基地設置を前向きに検討し始めている。特に円相場の高止まりを受け、日本の製造業の利益が圧迫される中、日本企業は台湾の半導体分野・パネル分野・太陽光エネルギー分野における産業集積の優位性を生かし、台湾を研究開発・製造のバックアップ基地とすることができる。さらに、ECFAの経済効果を受け、いち早く中国市場に進出することができるだろう。

 (3)日台産業の既存資源を統合してWin-Winの関係を創出:
 台湾の電子業界は、ハードウエア装置の組み立てや部品製造に特化した高い技術力を持つ。一方、日本の産業は川上分野の材料から、設備・技術・ブランドマネジメントにおいて群を抜いている。このため、台湾を日本の川上分野の顧客に、そして川下分野におけるブランドのOEM/ODM基地にすれば、日台間での相互補完関係が成立し得ると考えられる。とりわけ、先頃、日本・台湾間投資協定が締結されたこともあり、日本企業は台湾をグローバルビジネス展開の上での戦略基地と位置づけることで、日台双方の産業にWin-Winの関係を創出することができるだろう。