東日本大震災からもう少しで1年が経ちます。「日経Automotive Technology」では、この1年間で東北の自動車部品メーカーがどれくらいまで立ち直ってきたのかを調べてきました。実際に東北でお話を伺っていると、私の想像以上に多くのメーカーが着実に復興への歩みを進めています。「タイの洪水がなければ前年並みに戻せていた」と少し残念そうに、でも少し誇らしげに話すメーカーがあれば、震災前の水準にはまだ戻せないが「今年は必ず上回る」と明るく話す企業に多く出会えました。

 東北の自動車部品メーカーの前向きな姿勢の源がトヨタ自動車です。どのメーカーでもトヨタの話題で持ちきりでした。トヨタの車両生産を手掛ける関東自動車工業の岩手工場で造る「アクア」の販売が好調で、2012年の東北地方での車両生産台数はセントラル自動車と合わせて前年比4割増の50万台規模を見込んでいるからです。

 特に明るい表情を見せていたのがアクアの部品を受注したメーカーです。例えばアクアのプレス部品の塗装を手掛ける松下塗装は、「2011年6月頃まで売上高はほぼ半減だったが、アクアのおかげで持ち直した」と話します。同社は被災した工場を取り壊し、アクアの生産が始まる12月ごろまでに工場を建て直すほどに力を入れていました。

 現時点で“好調”と言えるのはアクアの部品を受注した企業が中心ですが、東北の自動車産業の将来の見通しも明るそうです。トヨタが今後、東北を中部、九州に次ぐ車両の生産拠点にしようとかなり力を注ぐ方針だからです。2012年には関東自動車工業とセントラル自動車、トヨタ自動車東北の3社でトヨタ自動車東日本を立ち上げます。そして現地のメーカーから部品を調達する割合である現調率を、東北地方で将来は約8割まで高める考えです。

 2012年1月には「東北現調化センター」をセントラル自動車内に新設し、部品メーカーの発掘と育成を強化し始めました。現段階でトヨタの東北地方での現調率は約4割とされます。ただこれは1次部品メーカーから納入された部品の割合で、2次/3次の部品メーカーまで見ていくと実際は東北地方の部品は2割程度と言われています。そこで東北の部品メーカーからは「今後はトヨタに技術をどんどんアピールしていきたい」との声があちらこちらで聞かれました。

 けれどもこうした前向きな企業が多い一方で、廃業する部品メーカーも少なくありません。津波によって挽回できないほどに大きなダメージを受けたメーカーもあるのですが、理由はそれだけではなく少し複雑です。ある被災した部品メーカーの社長によると、「震災による保険金などを含めて多額の資金を得た企業は多い。その中には、そのお金で残りの人生は何とかなりそうだからと廃業を選ぶ人が結構いる」というのです。

 今後は政府による多額の復興資金が本格的に東北地方に回り始めます。その社長はそれについて少し心配そうに話します。「確かに資金は必要だが、その資金が人のやる気をなくさせることもあり得る。裸一貫から建て直そうと前を向いている企業にぜひ回してほしい」というのです。「私の親戚や知人も多く亡くしたが、生き残ったものが仕事を続けて前を向くのが一番の弔いになるはずだ」と続けます。

 東北の自動車産業では今、いろいろな意味で「明暗」が分かれつつあるようです。弊誌も「明」るい企業が増えるような情報発信をしていかねばと改めて考えさせられました。