プランB 破壊的イノベーションの戦略、ジョン・マリンズ/ランディ・コミサー著、山形 浩生訳、1,995円(税込)、単行本、400ページ、文藝春秋、2011年8月
プランB 破壊的イノベーションの戦略、ジョン・マリンズ/ランディ・コミサー著、山形 浩生訳、1,995円(税込)、単行本、400ページ、文藝春秋、2011年8月
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 クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』(2001年7月、翔泳社刊)は、巨大企業が破壊的イノベーションに破れる実例がいくつも出てくる衝撃的な内容だった。大企業なのに安心できない。経営者が優秀で、優秀な社員を抱えた優秀な企業からは、業界の地図を塗り替えるような新技術(破壊的イノベーション)は生まれてこないからだ。

 業界の中心的存在となるような大企業から破壊的イノベーションが生まれてこないのなら、どこから出てくるのか。どうやって生み出していけばいいのか、という問いへの一つの答えが本書である。

 はじめに答えを明かしておくと、破壊的イノベーションは新興企業の中から起こる。それも、悪戦苦闘しながら生き残るためのビジネスモデルを模索している若い企業の中から。

 ベンチャー企業を起こすとき、失敗を予感しながら創業する人はいない。成功すると思っているから新規事業をはじめるのだ。しかし、当初の計画(プランA)が成功する確率は少ない。著者ランディ・コミサーが参加したベンチャー企業CEOの集まりで質問したところ、当初の計画を捨てて別の計画(プランB)やそれ以上に走ったCEOが2/3もいたという。

 起業家精神にあふれている米国でも、ベンチャー企業の成功率は低い。だからこそ、「われわれは、プランAの一部または全部がまちがっているという想定で話を進める」と本書の冒頭に書かれているのだ。ベンチャー企業が生き残るためには、当初のプランAにいつまでもこだわっていてはいけない。他社の成功例や失敗例を分析しながら、事業を好転させる施策を検討し、もっと良いプランBに、プランBがだめならプランCに、やがてはプランZに到達するまで走り続けるのが成功の秘訣なのだ。

 本書には20社以上の企業が登場し、ビジネス・プランを改良していった実例が示される。なかには、あまりに破壊的なビジネスモデルを構築したため、その業界全体の競争環境を一変させた例も出てくる。
 それぞれの実例は「ビジネスモデルの5要素」の切り口で分析される。ちなみに「ビジネスモデルの5要素」とは、収入、粗利、運営、運転資金、投資の各モデルだ。アップル、アマゾン、グーグル、トヨタ、スカイプなどの有名企業も登場するが、有名企業だからといって何でも称賛するのではなく、プランBを見つけるためのロードマップの観点から分析している。

 たとえば、オークション・サイト「イーベイ」が成功したのは、その優れた粗利モデルのおかげだった。1996年当時、オークション・サイトで最も大きかったのは「オンセール」という競合他社だったが、オンセール社の粗利率は悪かった。出品された品物をいったん買い取ったあと、荷受け、検査、出荷という手間をかけていたので、原価率が高かったのだ。
 イーベイは違った。品物を保有することはなかったし、買い手と売り手の金のやりとりも仲介しなかった。支払いや商品の発送を買い手と売り手自身が行うおかげで、イーベイには「在庫」がない。初期のイーベイの粗利率は80パーセントを超えていたという。

 もう一つ、運転資金モデルの成功例として登場する会員制倉庫型店「コストコ」を見ておこう。会員制倉庫型店では魅力的な低価格商品を販売しているので、顧客は喜んで年会費を前払いしてくれる。先に手に入れた巨額の年会費を元に大量仕入れを行い、納入業者に単価を下げさせる。ここで、「せっかく単価が下がったのだから利ざやを大きくしよう」と考えるのは普通の流通業者だ。米国のスーパー・マーケットやデパートの平均の利ざやがどこも20パーセントから25パーセントなのに対し、コストコでは利ざや14パーセント未満にしているとのこと。
 魅力的価格でパッケージも大きければ、商品は大量に売れ、回転率がどんどん上がる。こうして「コストコ」は、粗利益を極限まで薄くした代わりに、通常は銀行から借り入れなければならない運転資金の金額が「マイナス」になっているのだ。

 以上、「ビジネスモデルの5要素」のうち2要素だけ紹介したが、本書に登場する他の事例を見ていると、ビジネスの改良(プランBを構想し、成功させること)は、決して難しくないように思えてくる。
 あなたが社内ベンチャーに取り組むにせよ、スピンアウトするにせよ、本当に会社を辞めて独立するにせよ、起業家の背中を押して実務も教えてくれる本書の一読をお勧めしたい。

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