東日本大震災から約1年が経過した福島県で、世界が注目する国際会議が始まろうとしている。外務省、経済産業省、環境省が共同で2012年3月2日に開く「被災地復興へ向けたスマートコミュニティ提案」である(福島市飯坂町、参加無料)。

 この国際会議には、スマートシティやスマートコミュニティの構築プロジェクトのリーダーが世界から集結する。こうしたリーダーたちが最新の知見を披露し合うのと同時に、東日本大震災からの復興に当たっている関係者が状況を報告する予定だ。こうすることで、スマートシティの新たな流れを日本の復興策に組み込み、加えて日本の復興状況を世界に対して発信できる。海外への情報発信が不得意な日本にとって、大きな機会でもあるのだ。

 この国際会議の口火を切って基調講演に立つのは、国際エネルギー機関(IEA)事務次長のRichard Jones氏である。続いて2人が基調講演をしたあとで、二つのパネル討論会が開かれる。「国内外のスマートコミュニティの先駆的取り組み」と「復興に向けたスマートコミュニティ提案」である。

 これらのパネル討論会には、海外からオランダのアムステルダム市やデンマークのロラン島、米国テキサス州オースティン市、アラブ首長国連邦(UAE)のマスダールシティといった著名なスマートシティ・プロジェクトのリーダーが参加、国内からは北九州市や東京都港区のプロジェクトの代表が加わる。彼らはどのようなメッセージを東北の被災地に送るのか。次の三つの論点に注目したい。

第1に「主役は誰か」である。

 震災以降、たくさんの企業や団体が被災地に対して復興を掲げた各種の提案を実施した。ところが、その多くが「モノを売る提案」だったという。最先端の技術や製品をそれぞれ単体で売り込んでも、復興を提案したことにはならない。街の主役はモノではなく、そこで暮らすヒトだからである。

 スマートコミュニティの先駆的な取り組みとして有名なアムステルダム市のプロジェクトの責任者であるGel Baron氏は、2011年11月にスペインで開かれた「スマートシティ国際会議」において、「City is Nothing」「ヒトが最も重要」と鋭く訴えた。2011年10月に横浜で開かれた「Smart City Week 2011」の「新スマートシティ宣言」の中でも、シティやコミュニティの主役はモノではなくヒトであるとうたわれた。

 復興都市では、その色彩がより強く出る。復興の主役はヒトであり、そのつながりがコミュニティだ。技術や製品は、それを実現するための手段でしかない。この順番を間違えてはならないのに、企業の提案の多くは、そうなっていないのが現状である。

第2の論点は「市民参加」である。

 国や県主導のプロジェクトで作られるビジョンと、地域に根付いて暮らす住民のニーズをどのように合致させていくのか。10年単位の長期ビジョンと、今日・明日の課題解決が最優先になる住民のニーズを整合させつつ、復興の進展度合いに応じて変化するニーズに機敏に対応していく必要がある。

 これは極めて難しい課題だが、実は被災地の復興計画だけが直面しているわけではない。世界のいずれのスマートコミュニティ・プロジェクトにおいても顕在化している課題でもあるのだ。今回のパネル討論会では、こうした難題に関係者がどのように取り組んでいるのか、そして被災地ではどのように取り組むべきなのかを探ることになろう。

第3の論点は「雇用」だ。

 復興しても、現地で継続的な雇用が生まれなければ住民は安定した生活を営めないことは自明だろう。それがあってこそ経済が動き、自律的な復興につながっていく。では、どのように雇用を創出していくのか。

 防災産業や新エネルギー産業、蓄電池産業の集積地としていこうという案がある。世界の課題である高齢化問題を解決するソリューション拠点として雇用を創出したいとする案もある。雇用問題は被災地に限った課題ではないが、より深刻であることは確かだ。

 国内外の最先端の知見から、被災地に向けてどのようなメッセージを出すことになるのか。そして、その知見や考え方、ノウハウなどを、被災地には受け入れてもらうために何ができるのか。プロジェクトリーダーたちの活発な議論だけでなく、その議論を会場で聴いた多くの参加者が、それぞれ新たな取り組みを始めることを期待したい。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。