複数の施設を束ねてESCO事業

 もう一つの動き出しているプロジェクトは「地域ESCO事業」である。古い施設についてESCO事業(省エネルギーサービスを提供し、得られた効果の一部を報酬として受け取る事業)を募集するものだが、通常のESCO事業と異なるのは、複数の施設を束ねて事業化する点だ。

 一般に、ESCO事業を検討する際の悩みは、1つの施設だけを対象にすると効果が限定的になりがちなこと。特に条件のよいところでないと事業化が難しかった。しかし、複数の施設を束ねて効果を高めれば、グッと実現しやすくする。2011年度は、秋田市立山王中学校やスポーツ施設など4つの施設を束ねて募集を開始した。

 このESCO事業は、前述したスマートシティ情報統合管理基盤と連携させる。それによって、市全体のエネルギー効率の向上を目指す。やはり、まずは市の施設で事業として成り立つことを示し、民間企業にも広げることを念頭に置いている。

「90歳ヒアリング」を実施

 こうして動き出した2つのプロジェクト以外に、前述の通り、始動前の7つのプロジェクトがある。「低炭素モビリティ」や、秋田ならではの木質バイオマスや地中熱を活用する「地産エネルギー導入促進事業」、スマートシティを体感できる「新庁舎の建設」、日本初となる「地域LEED認証取得」、都市と農村の交流を活性化し他県からの観光客を呼び込む「グリーンツーリズム推進事業」、省エネやエコ活動をポイント制にする「電子地域通貨導入事業」、海外との交流を深める「アジア・アフリカ地域の環境リーダーとの連携」である。

 しかし、これだけではまだ高齢化への対処や「北国ならでは」の施策としては迫力不足であることは否めない。そこで、秋田市は90歳前後の市民20人にヒアリングを実施した。90歳というと、太平洋戦争の終戦前に成人している人たちだ。

 高齢者の意見からは、電気の足りない時代における生活の知恵や、雪国ならではの工夫を聴くことができたという。現在、そのデータを東北大学に送って、分析を依頼している。東北大学では宮城県からも同年代の人たちから意見を集めており、日本海側と太平洋側の特徴の比較などを実施している。分析結果が戻ってくれば、これをスマートシティ・プロジェクトに盛り込んでいく計画だ。

震災復興も支援

 秋田市は今回のスマートシティ・プロジェクトの基盤システムを岩手県の大槌町と共同運用することを決めた。震災復興を支援するためだ。これにより大槌町はシステム構築費を削減できる。一方、秋田市は、管理運用費の負担を軽減する。

 秋田のスマートシティ・プロジェクトは始まったばかりで、まだ実績もない。しかし、2011年3月に被災した太平洋側地域のためにも、プロジェクトを成功させる必要があると意気込む。30万人規模の北国の地方都市のスマートシティが、どう構築されるのか、今後の動向が注目される。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。