「うわっ! ホントに作ってたのか」

 画面の中に映る光景を見て、思わず声を上げてしまった。

 白い作業服を着た年若い作業員たちが、ホワイトバージョンのiPhone 4Sのスクリーンに保護フィルムを貼っている。別のラインでは、印象的なリンゴのマークの付いたiPad 2ブラックモデルのボディを手に取り、ためつすがめつしている。そしてまた別のラインで検品を終えてフタを閉じられ、今まさに箱詰めされようとしているのは、ノートパソコンMacBook Proではないのか――。

 これは米ABCネットワークの報道番組「Nightline」で米国時間2月21日夜に放送された「Apple's Chinese Factories」という番組の一コマ。米Apple社のiPhone、iPadの受託生産をほぼ独占している電子機器受託生産(EMS)世界最大手の台湾Foxconn(フォックスコン=鴻海)社の工場内部の様子を数週間前に取材したというもので、筆者も一日遅れで観る機会を得た。

 中国のテレビ局が2011年10月、Appleのサプライヤーが中国の環境を汚染しているとの番組を放映。さらに米紙『ニューヨーク・タイムズ』が12年1月末、Appleのサプライチェーンであるフォックスコンの労働環境が劣悪だと報じたことで、Appleに対する非難が強まりつつある。イメージダウンを懸念したAppleは2月13日、米公正労働協会(FLA)にフォックスコンのほか、台湾Quanta Computer社、台湾Pegatron社など同社の受託生産工場の特別任意監査を依頼。これを受けFLAが同日から、フォックスコン深セン工場で数千人の従業員を対象に労働環境等の調査を行ったことは、日本でも大きく報道された。こうした流れの中で、今回のABCの取材は実現したようだ。

 筆者は仕事柄、EMSの工場を実際に見る機会は少なくない。ただそこで何を作っているかを書くのは遠慮してくれ、と念を押されることがほとんどだし、製品の写真撮影もご法度だ。そしてAppleはもとより、フォックスコンの秘密主義は、EMSの中でも群を抜いていると言われていた。だから今回、取材をしたABCのキャスターが番組の冒頭、「われわれはAppleの招待を受け、史上初めて第三者としてフォックスコンを視察した」といささかオーバーな表現で自賛したのも、悔しいが気持ちは分かる気がする。

 さて冒頭、思わず声を上げてしまうほど筆者が反応したのは、iPhoneやiPadの映像ではなく、フォックスコンの工場にMacBook Proの姿を認めたため。なぜなら番組を観たまさにその日、台湾業界筋の話として、当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)で「フォックスコン、MacBook Pro受注に成功か クアンタの独占崩す」という記事を書いたばかりだったからだ。

 MacBook Proの生産はこれまで、Quantaの独占だと目されてきた。それが2月22日付の台湾紙『経済日報』が業界筋の話として、フォックスコンが全体の2割の受注にこのほど成功したと報道した。

 この報道自体はおそらく、ABCの番組をいち早く観た同紙が業界筋からより具体的な数字を引き出してなされたものなのだろう。ただ台湾系のEMSや部品メーカーは、こうした「どこそこの製品を受注した」といううわさに対し、「個別の顧客や製品についてのコメントは差し控える」と答えるのが常。だから、うわさになったその製品が、うわさになったまさにそのEMSの工場で生産されているのが一般の目に触れるところになり、生産の事実が実証されるというのは、極めて稀なことなのである。

 フォックスコンがMacBook Proの生産を受注したということについて、台湾の業界や市場では、これを意外なこととして受け止める向きが多かったようだ。

 一つには、ノートPC受託生産の利益率があまりに低いことから、フォックスコンがこの市場から撤退しつつあると目されていたこと。そしてもう一つは、Appleがリスク分散を目的に第2、第3のサプライヤー探しを進める一方、フォックスコンに対する依存度を下げていくものと見られていたためだ。台湾の業界筋は、「MacBook Proの一件は、Appleがフォックスコンと距離を置くどころか、関係がより緊密になったことの証左ではないのか」と話す。