現実に、毎年、私が受け入れている清華大学の日本ツアーの参加者が、昨年末は半分以上も突然にキャンセルをした。1年越しで楽しみにしていた日本訪問をキャンセルするというのは、ほとんど海外旅行に行くことすらない多くの中国人にとっては、とんでもない出来事なのだ。

 2010年は30%以上の雇用増だったが、2011年は急速に雇用が減少した。中国の12月期の輸出は、2年間で最低を記録している。中国の最大の輸出先は欧州で約19%を占める。日本にとって中国は最大の輸出国だが中国から見れば日本への輸出は8%以下、欧州の半分にも満たない。その欧州市場がギリシャを発端とする通貨危機で冷え込み、輸出がダウンした。そのことが、中国全土に大きな影響を与えている。特に広東省は深刻だ。

 中国各地の農民工への未払いが深刻な問題になっている。中国の農民工は約1.5億人、うち80%が都市部に出稼ぎに来ている。2012年の全国未払い給与総額は1000億元以上、そのうち70%が建設業界ということだ。そして、毎月給与をもらえる農民工は僅か10%。高速道路の欄干に居座る者、裸で「血汗銭」とプラカードを持って街を行進する者、労働者のデモンストレーションが後を絶たない。

 中国では、貧富の差が広がってきていると指摘されている。しかし、中国政府当局は、「ジニ係数」を公表しない。ちなみに、ジニ係数は主に社会における所得分配の不平等さを測る指標として知られるもので、ローレンツ曲線をもとに、1936年、イタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案された。0から始まり貧富の差が強くなると1に近づく。このジニ係数が「中国では0.5をすでに超えているのではないか。灰色収入(高所得者の賄賂収入)の存在を考慮すればもっと高くなる」と中国の経済専門家は警告する。

 米国CIAが2009年末に発表した世界のジニ係数を見てみよう。日本0.249、韓国0.316、台湾0.339、米国0.408、香港0.434、中国0.469。0.4以上が警戒区分で、これを超えると所得格差が著しく社会不安が広がるとされている。中国は主要国ではもっともジニ係数が高い部類に属し、すでに最警戒域にある。

 その中国ではいま、不動産バブルの崩壊が懸念されている。だが、そこにはしたたかに生きる中国人の姿もある。春節後は、不動産以外のあらゆる事業へ展開を考えている中国人が多い。食いものが売れる、美容化粧品が売れるということで、一般消費者に近い製品への方向転換を模索し始めているのである。

 「貯蓄も始めています」。こう答える中国人労働者が増えてきた。年利3.5%ぐらいで、5%になる金融商品も登場している。これまであまり貯蓄をしてこなかった中国人のライフスタイルも少しずつ変わってきている。Gold(金の延べ棒)などの販売も市中銀行が始めた。なんと中国工商銀行では支店の中で金の販売コーナーが大きなスペースを占めているのだ。次々と稼いだ現金をGoldに替えていく。

 中国のGDPは10%で延びていても所得の延びは5~7%もない。格差是正のために中国政府は、毎年20%の人件費向上を目指しているが雇用確保の面から達成が難しい。そんな過渡期にあっても、中国人はしたたかに生きている。

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