2012年春節。

 「バババババーン」爆竹の音が鳴り響く。爆竹による火災のために北京のCCTVのビルが全焼した事は記憶に新しいが、昨年も爆竹による火災で遼寧省瀋陽の高さ152メートルの5つ星ホテルが全焼した。毎年、毎年、爆竹による大火災が後を絶たないが、中国では警察当局が取り締まってもこの爆竹を止めようとはしない。

 「春節聯歓晩会」(略して「春晩」)が毎年中国中央テレビ(CCTV)で放送され、全土の中国人が視聴する。日本で言うとNHKの「紅白歌合戦」のような番組だ。ただその内容は歌に限らず、ダンス、曲芸、相声(日本の漫才に多少近い一種のコメディ)、小品(コントに近い)などと多種多様だ。春晩の視聴者は億単位であろう。今年は、中国のあるコメディアンが日本のコメディアン・アンジャッシュのコントをパクリ、その事件で日本でも有名になった番組だ。

 故郷に帰って父母など家族に会うために帰省する人で地方行きの列車の中は大入り満員だ。そんな風景が中国のテレビでは何度ともなく映し出されている。しかし、田舎に帰る人ばかりではない。春節に海外旅行をする人たちも多い。これは、お盆の時期、海外旅行が多い日本と同じ現象だ。

 今年の春節における海外消費額は、5500億円を超え過去最高額となった(世界奢侈品協会=World Luxury Association, WLA発表)。地域別の比率をみると、欧州が46%、北米19%、香港、マカオ、台湾35%となっている。欧州に出かけて買い物をするのが人気だ。買うのは洋服、化粧品、腕時計など嗜好品である。こうした買い物客が押し寄せる各地では中国人消費者様々だ。各地域の高級品総売上額に占める中国人消費者の割合は、欧州で62%、北米28%、香港、マカオ、台湾69%とダントツに多い(同上調査)。高度成長やバブル期の日本が担っていた役割を、そっくり中国人が引き継いでいる格好だ。

 こうした、中国人の金持ちぶりについて報道されることが多くなった。しかし、その裏側には、また違った中国がある。

 「この時期(春節)が来ると急に生活が苦しくなります。その後、北京で暮らしていけるかお先真っ暗です」と言うのは、3カ月分の給与を使って故郷の親類縁者にお土産を買って行く吉林省出身の男性である。
 
 安徽省出身、上海在住の未婚の女性は「今回の帰省をキッカケに地元企業で働くことにしました。都会は物価が高くて、働けど働けど生活が楽にならない。故郷への仕送りもできない。もう都会に戻ってくることはないでしょう」とこぼす。

 都会から列車で帰省する人々は、一様に都会で暮らすことの難しさを口にする。

 雇用が減り、働きたくても働けないという実態もある。多くの農民工は解雇におびえているのだ。故郷で就職した方がいいと考え始める農民工が多いのもうなずける。都市の生活は高すぎて月に3000~4000元ほど。稼いでも稼いでも家賃や食費の支払いに消えていく。

 都会の工場地帯でも欧州からの受注が減少している。「どこも工場の人手は余っている」と広東省東莞の電気部品工場の社長はつぶやく。「2011年の後半、とくに10月ごろ仕事が減少し、リーマンショックの時よりもひどい状況だ」「売上が半分になってしまった工場もある」(深セン南山地区工場長)。